神経 (23)
1. 神経学的診察
┗ 意識レベル
┗ 認知機能
┗ 上肢機能
┗ 脳神経系
┗ 下肢運動機能
┗ 感覚系
┗ 小脳機能
┗ 腱反射
┗ 髄膜刺激症状
┗ 徒手筋力評価
┗ NIHSS
┗ 消去現象と注意障害
┗ 巧緻運動障害
┗ 10秒テスト
2. 中枢神経系解剖学
┗ 脊髄後索
┗ 脊髄側索
┗ 灰白質
3. 脳血管障害の超急性期評価
┗ 虚血性脳血管障害の治療
┗ 脳梗塞画像所見の経時変化
┗ 脳血管障害の部位としびれ
┗ DOACの使い方
4. 脳血管障害
┗ アテローム血栓性脳梗塞
┗ ラクナ梗塞
┗ 心原性脳塞栓症
┗ 一過性脳虚血発作(TIA)
┗ 手口症候群
┗ pure sensory stroke
┗ 椎骨脳底動脈血流不全(VBI)
┗ 特発性脊髄硬膜外血腫
┗ 解離性感覚障害
┗ MLF症候群
┗ One-and-a-half症候群
5. 一次性頭痛
┗ 一次性頭痛の鑑別
┗ 前兆のない片頭痛
┗ 前兆のある片頭痛
┗ 脳底型片頭痛
┗ 前庭性片頭痛
┗ 一次性穿刺様頭痛
┗ 持続性片側頭痛
┗ 新規発症持続性連日性頭痛
┗ 特発性低髄液圧性頭痛
┗ 一次性咳嗽性頭痛
┗ 一次性労作性頭痛
┗ 副鼻腔炎に関連した頭痛
┗ 睡眠時無呼吸症候群に関連した頭痛
┗ 閉塞隅角緑内障
┗ 三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)
┗ 群発頭痛
┗ 反復発作性片側頭痛
┗ 慢性発作性片側頭痛
┗ 結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作 :SUNCT
┗ 頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作 :SUNA
6. 二次性頭痛
┗ 重大な二次性頭痛
┗ 様々な二次性頭痛 解説
7. 認知症
┗ アルツハイマー病
┗ Lewy小体型認知症
┗ 血管性認知症
┗ 前頭側頭型認知症
┗ ADEPT 重症認知症の予後を予測
8. めまい
┗ BPPV
┗ メニエル病
┗ 前庭神経炎
┗ PPPD
┗ 突発性難聴
┗ 外リンパ瘻
┗ 前庭型片頭痛
┗ ラムゼイ・ハント症候群
┗ めまいの評価にHINTSが必要な理由
┗ HINTS
9. てんかん
┗ 非痙攣性てんかん重積状態
┗ てんかん重積状態の治療
10. 多発性硬化症
11. 進行性核上性麻痺
12. 不随意運動
┗ 本態性振戦
13. 糖尿病性神経障害
14. ウエルニッケ脳症
15. 周期性四肢麻痺
16. 末梢神経疾患(ニューロパチー)
┗ ギラン・バレー症候群
┗ フィッシャー症候群
┗ CIDP
┗ CIAP
┗ 横隔神経麻痺
36. 神経調節性失神
┗ 血管迷走神経性失神
┗ 状況失神
┗ 頚動脈洞症候群
42. 筋萎縮性側索硬化症
43. 筋強直性ジストロフィー
45. 重症筋無力症
46. ランバート・イートン筋無力症候群
47. 薬剤性ミオパチー
48. Bell麻痺
Bell麻痺

Bell麻痺

    ・発病率は人口10万あたり年20~30名
    ・一側顔面神経麻痺の60~75%を占める
    ・性差はなく、発症年齢は全ての年齢で発症するが40歳台にピークを持つ
    ・妊婦とと糖尿病患者に多い ・予後不良因子は、高齢、高血圧、味覚障害、耳以外の痛み、顔面神経の完全麻痺など

【病態】

    ・多くは潜伏感染していた単純ヘルペスウイルスⅠ型の再活性化が関与していると考えられている(*2)
    ・顔面神経は運動性の固有顔面神経と知覚および分泌性の中間神経から構成され、傷害される部位によって症状が異なる



    ・顔面神経への炎症細胞浸潤と浮腫、それに伴って神経線維周囲の髄鞘が剥がれ落ちたり(脱髄)、神経線維自体が部分的に破壊されて断線してしまう(軸索変性)。脱髄が主体であるが、一部軸索変性も関わっている

    (顔面神経麻痺の原因)
    1999〜2017年にわたる愛媛大学の症例集積では、Bell麻痺が68.1%、ラムゼイ・ハント症候群が12.4%、手術の後遺症が5.7%、側頭骨骨折が2.9%。中耳炎などの耳炎によるものが1.3%と報告されている

    【症状】

      (発症の経過)典型的には症状は48時間以内にピークを迎えるが、その後も1週間程度は増悪し続けることがある

      ・前頭筋麻痺: 病側で額のしわが浅い
      ・眼輪筋: 目を十分に閉じられず、眼裂があく
      ・口輪筋: 鼻唇溝が浅くなる、あるいは消失する。病側の口角から空気がもれて話にくくなる。唾液や飲み物、食べ物がこぼれる。
      ・舌: 遠位2/3の味覚障害
      ・聴覚過敏: アブミ骨筋麻痺により鼓膜の緊張が増すため
      ・耳介〜顔面のしびれや痛みが約半数に生じる

      (遅発症状)
      ・破壊された神経の再生時に誤ってもともと支配していた筋や内分泌腺と異なる筋や内分泌腺につながるようになるために生じる病的共同運動
      ・瞬きをすると同側の口輪筋が収縮してヒョットコのような口になる
      ・唾液腺を支配していた副交感神経が涙腺につながることで、食事時に涙が出る(ワニの涙現象)


    【評価】

      ・前頭筋麻痺: 病側で額にしわがよせられない
      ・眼輪筋: 目を十分に閉じられず、眼裂があく
      ・口輪筋: ①「イー」と発音させる ② 口笛を吹く ③ 頬をふくらませる

    【診断】

      ★ Bell麻痺の診断は他の疾患の除外によってなされる

      ① 中枢性顔面神経麻痺
      ・末梢性では半速顔面全域で明らかな麻痺を認めるが、中枢性では上部の麻痺は軽度になる。そこで、額にしわを寄せるように指示すると、中枢性では左右差が認められない
      ・顔面神経以外に由来する症状を伴うことも多い
      ② 手術による損傷
      ・術後に顔面神経麻痺が出現した場合
      ③ 外傷性顔面神経麻痺
      ・顔面外傷の既往
      ④ 顔面神経鞘腫
      ・顔面神経麻痺を繰り返す、あるいは経過が非常に長い
      ・難聴を伴う
      ⑤ 聴神経腫瘍
      ・難聴やめまいを伴う
      ⑥ 耳下腺腫瘍
      ・耳下の腫脹
      ⑦ 耳炎性麻痺
      ・耳痛、耳漏、中耳炎
      ⑧ ラムゼイ・ハント症候群
      ・耳帯状疱疹、難聴、めまい

      ・その他、ライム病、ギラン・バレー症候群でも合併することがあるが多くは両側性

      ・以上がすべて該当しないものをBell麻痺と診断する
      ・ただし、その中には皮疹を欠くラムゼイ・ハント症候群が1〜2割程度含まれている(*3)

    ラムゼイ・ハント症候群

    【治療】

      ★ 実際の治療は耳鼻咽喉科専門医に任せる

      (薬物治療)
      ・発症後3日以内に治療開始できるときは軽症にはステロイドのみ、中等症〜重症ではさらに抗ウイルス薬を加える
      ・発症後4日以降の治療開始となるときは、中等症〜重症ではステロイドのみ、軽症では無治療とする
      ・ステロイドを用いる場合は、血糖や肝炎ウイルスの活性化に注意を払う

      免疫抑制作用のある薬剤使用前肝炎スクリーニング
      ・神経回復のためにメコバラミンが投与される場合もあるがエビデンスは乏しい
      ・閉眼障害のために角膜障害を合併することが多く、夜間就寝前には眼軟膏を用いる用指導する
      ・病的共同運動が出現した場合にはボツリヌス毒素の注射が試みられる

      (その他の治療)
      ・星状神経節ブロックや手術療法は現在は推奨されていない

      (リハビリテーション)
      ・顔面神経麻痺に対するリハビリテーションは後遺症である麻痺の改善や,病的共同運動・拘縮の予防と軽減という点で推奨されている

        参考文献)
        1. 日本神経治療学会「標準的神経治療:Bell麻痺」
        https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/bell.pdf
        2. Murakami S, Mizobuchi M, Nakashiro Y et al : Bell palsy and herpes simplex virus : identification of viral DNA in endoneurial fluid and muscle. Ann Int Ned 124 : 27-30, 1996
        3. 羽藤直人「顔面神経麻痺の診断と治療」日耳鼻 スキルアップ講座 125-58 2017
        4. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 近藤泉 他:特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)2021-2022年度版」日本医事新報社 2022. 5. 金城光代 他 編「ジェネラリストのための内科診断マニュアル 第3版」医学書院 2023
        6. 森嶋直人「顔面神経麻痺に対するリハビリテーションの進め方―エビデンス・保険診療の概要・診療チームについて―」日耳鼻124: 954―958,2021