伝染性単核球症

伝染性単核球症

  • 約90%はEpstein-Barrウイルス(EBV)が原因であり、さらに約10%ではサイトメガロウイルス(CMV)が原因となる。まれにHIV、トキソプラズマ、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、単純ヘルペスウイルス、A型およびB型肝炎ウイルス、トキソプラズマ、リケッチアなども原因となり、類似した症状を示す
  • EBVは主として唾液を介して感染する。そのためkissing diseaseとも呼ばれる
  • EBVはまず主として唾液を介して咽頭上皮細胞に感染し、増殖してBリンパ球に感染する
  • 乳幼児期に初感染した場合は不顕性感染がほとんどだが、思春期以降に感染すると発症しやすい
  • 日本では3歳までに70%が、35歳までに90%以上が抗体を有する。
  • 15〜24歳頃の若年者の罹患が多い。40歳以上はまれである
  • 咽頭痛を主訴に受診した患者の年齢層ごとの伝染性単核球症の割合を下表に示す

症状

  • 4〜6週間の長い潜伏期を経て発熱、咽頭扁桃炎、リンパ節腫脹、発疹などを示す
  • 発熱は高頻度に認められ、多くの場合38℃以上で1〜2週間持続する場合が多いが、1ヶ月以上続く場合もある
  • 扁桃には偽膜形成を認め、口蓋は発赤が著明で出血斑を認めることもある
  • 咽頭痛は強い場合が多い
  • リンパ節腫脹は発症1〜2週間をピークとして全身に認めるが頸部が著明である
  • 皮疹の頻度は低い。多発紅斑などがあれば、その鑑別診断も行う。重症薬疹である薬剤性過敏症症候群(DIHS)も鑑別にいれる
  • リンパ節腫大の診察: まず、圧痛がある部位を確認し、それから丁寧に触診すれば確認できる

検査所見

  • 肝機能異常は90%以上の症例で認められる。AST、ALTは発症第2週頃をピークとして300-500IU/L程度のことが多いが、数千IU/Lと著明に上昇する場合もある
  • 白血球は発症2〜3週間後に10000〜20000/μLに達する
  • 高頻度で軽度の好中球減少と血小板減少がみられる
  • 肝腫大は8割で出現する
  • 脾腫の頻度は6割程度で、ほとんどが14日以内に出現し、4-6週で消退する

診断

  • 確定診断には血清学的診断が必要だが時間がかかるので、臨床所見と血液像で暫定診断し、数ヶ月あとに血清学的に確定診断する
(臨床所見)
  • 臨床所見で特異度の高いのは脾腫(特異度99%、陽性尤度比7.0)、感度の高いのは倦怠感(感度93%、陰性尤度比0.3)
  • 臨床的には「経過が長く発熱期間が長い(1週間以上)」「咽頭痛が強く後頚部リンパ節腫脹が目立つ」などから疑う
  • "kissing desease"と言われるが、問診しても感度も特異度もさほど高くない上にプライバシーの侵害になる可能性があり問診する必要はない
    各臨床所見の頻度、感度、特異度、尤度比を下表に示す(*5)

(血液像)
  • 「異型リンパ球10%以上」、および「リンパ球50%以上」は伝染性単核球症の可能性を大きく高める
  • 血液像所見の頻度、感度、特異度、尤度比を下表に示す(*5)

(血清学的診断)
  • VCA(virus capsid antigen)抗体(igM、IgG)、EBNA(EBV nuclear antigen)を組み合わせて診断する

  • VCA-IgM: 90%以上で発症時には陽性となっており、2-3ヶ月後には陰性化する
  • VCA-IgG: 90%以上で発症時には陽性となっており、その後は生涯にわたって陽性が持続する
  • EBNA: 発症から6〜12週間で陽性となり、その後は生涯にわたって陽性が持続する
  • 約10%はCMVによるものなのでCMV-IgMも同時に検査する
  • 現在ではPaul-Bunnell反応は診断精度に劣るため用いられない

◎伝染性単核球症を疑う臨床所見があり、VCA-IgM、VCA-IgGのどちらかが陽性で、EBNAが陰性の場合に、暫定的に新規のEBVによる伝染性単核球症と診断し、2〜4ヶ月後にEBNAが陽性となれば確定診断とする

    (年齢層と臨床所見による事後確率計算)

    年齢層
    5〜15歳 16〜20歳 21〜25歳 26〜35歳
    倦怠感
    あり なし
    脾腫
    あり なし
    口腔出血斑
    あり なし
    後頸部リンパ節腫脹
    あり なし
    異型リンパ球
    10%未満 10%以上、20%未満 20%以上、40%未満 40%以上
    リンパ球
    50%以上 50%未満


    事後確率(%)   

(EBV感染でなかった場合)
  • CMV-IgGが陰性でCMV-IgMが陽性であればCMV感染と診断する。CMV-IgGは発症から数週間しないと陽性にならず、遅れて陽性化すれば確定診断
  • EBVもCMVも否定的であれば、以下の疾患を検討する

HIV感染症

A型肝炎

B型肝炎

合併症

  • 合併症の中で脾破裂と血球貪食症候群には特に配慮が必要
(脾破裂)
  • 脾腫は脾腫の頻度は6割程度で、ほとんどが14日以内に出現し、4-6週で消退する
  • 脾腫のうち破裂するのは0.1〜0.2%
  • 外傷が誘因となることが多いが、特に誘因がない場合も少なくない
  • 発症後1日から8週間以内に発生する
  • 死亡率は9%(⇒ 1万人の伝染性単核症患者の0.5〜1.0人が脾破裂で死亡する)


(血球貪食症候群)
  • 末梢血で2系統以上の細胞の減少を認めるときに疑う
    Hb≦9g/dl,血小板≦10万/μl,好中球≦1000/μl
  • 診断確定には骨髄やリンパ節の生検所見が必要
  • 治療としてはステロイド投与など
(その他)
  • 無菌性髄膜炎、脳炎などの中枢神経症状が現れることもある(1%以下)
  • まれに溶血性貧血、血小板減少症、B細胞リンパ腫、心筋炎などを合併する

治療

  • 基本的には対症療法のみ
  • ペニシリン系およびセフェム系の抗生剤を投与すると皮疹が生じやすい
  • 重篤な肝障害、血球貪食症候群、リンパ増殖性疾患などを合併した場合には専門機関に紹介する
参考文献)
  1. 眞鍋治彦 他「急性期の帯状疱疹の治療」日臨麻会誌 Vol.28 No.1/Jan. 2008
  2. 稲垣太郎 他「当科における伝染性単核球症の臨床的検討」 東医大誌 60(3):249~253,2002
  3. 脇口宏、高田賢蔵、今井章介:EB ウイルスと伝染性単核症、EB ウイルス、EB ウイルスとリンパ腫. ヘルペスウイルス感染症 監修・編集 新村眞人、山西弘一. 発行・ 臨床医薬研究 協会. 1996; 251-258
  4. 熊倉俊一 「HPSの病態・診断・治療」血栓止血誌 19(2) : 210~215,2008
    https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide01_09.pdf
  5. Ebell MH:Epstein-Barr Virus Infectious Mononucleosis Am Fam Physician. 2004;70(7):1279-87.
  6. 日本感染症学会「伝染性単核球症」https://www.kansensho.or.jp/ref/d43.html
  7. 国立感染症研究所「伝染性単核症とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/444-im-intro.html