C.difficile感染症

C.difficile感染症

  • 嫌気性菌で芽胞形成性の嫌気性菌
  • クロストリジウム属にはC.difficile以外に、ボツリヌス菌 (Clostridium botulinum)、破傷風菌(C.tetani)、ウェルシュ菌(C.perfringensする)などがある
  • C.difficileは抗生物質に対して耐性があり、患者に抗菌薬を長期間投与すると他の腸内細菌は減少するのに対して、C.difficieが増殖して発症する
  • 院内感染の中で最も頻度が高い疾患と考えられている院内発症の下痢の20〜30%を占める
  • 病院のベッドや床などにはこの芽胞が広く存在し20~70%の場所から検出されるとの報告がある
  • 入院中の原因不明の発熱の原因として必ず鑑別診断にいれるべき
  • 通常の環境で数ヶ月存在しうる
  • 胃酸に強いので容易に腸管に到達する
  • 成人では2%、老人では10〜20%、乳幼児では最大50%に無症候性に存在する
  • 12日間入院すれば21%の患者がC.difficileに感染するが、その6割強が無症状
  • ほとんど全ての抗菌薬が原因となりうるが、特に広域ペニシリン、第2、第3世代セフェム系の薬剤や、複数の抗菌薬併用がハイリスク
  • 死亡率は全体で2〜5%、高齢者では10〜20%

症状

  • トキシンAは腸管毒素と呼ばれ、腸管粘膜に結合して、粘膜の損傷、出血を伴う下痢(タンパク質と電解質を喪失する)
  • トキシンBは細胞毒素と呼ばれ、損傷した粘膜から組織内に侵入して細胞を障害する
  • 典型例では、抗菌薬使用後1〜2週間後に下痢、発熱、腹痛が生じる
  • 偽膜性腸炎から、偽膜を生じない大腸炎、さらに下痢が無く発熱のみの場合もある
  • イレウスとなることあり、この場合は下痢を生じないため、臨床的に不明熱となる場合がある
  • 重症例では広範な潰瘍形成と伴い血性の下痢となり、重篤な場合は中毒性巨大結腸症を呈する
  • 96%抗菌薬投与14日以内に発症
  • まれに、抗菌薬使用後1〜2ヶ月後に生じることもある
  • X腺検査に加え、気管支鏡下生検、縦隔鏡下生検などで診断

危険因子

  • PPI投与中
  • 65歳以上の高齢者(若年者の10倍以上)
  • 経鼻チューブ挿入、手術後
  • 免疫不全
  • 肥満

検査

  • C.difficileのうち毒素を産生するのは30%程度であり、培養では診断できない
  • 白血球数は5〜10万/μLまで増加することがある
  • 便中C.difficileトキシン検査感度は、前提となる状況や検査キットの種類、gold standardの違いにもよるが一般的に60―80%程度
  • したがって、CDトキシン陰性でも、臨床状況ほかを考慮して、想定して治療を開始するケースもある
  • CDトキシンの検査を繰り返すことは一般的には推奨されない
  • Glutamate dehydrogenase 抗原(GDH 抗原:感度85〜95%)も利用できるようになっている

診断

  • 原則として、診断では、
    ①24時間以内に形状のない排便が3回以上
    ②CDトキシン陽性、もしくは毒素産生性CDが陽性、あるいは大腸内視鏡で偽膜性大腸炎を示す
    ことが必要
  • 抗菌薬の使用中〜使用後に下痢や軟便が生じれば疑う必要がある
  • 下痢などの臨床症状がありかつ糞便検体にてC. difficile トキシン検査が陽性となった場合、あるいは内視鏡にて偽膜性腸炎の所見が確認された場合に診断される
  • CDトキシンABのC.difficil感染に対する感度は50〜90%であり不十分
  • 偽膜形成は50%程度であり、偽膜がなくても除外はできない
  • 糞便中グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)検はC.difficileが特異的に産生する酵素(GDH)を検出する方法で感度は高いが、トキシンを産出しないC.difficileでも陽性になるので特異度が低い


  • 上記のアルゴリズムで陽性となっても、単なる保菌の可能性もあり、検討が必要s

感染対策

  • 芽胞菌なのでアルコール消毒は無効
  • 流水による手洗いと、次亜塩素酸による消毒

治療

  • 可能であれば、発症時、あるいは発症前2週間以内に投与していた抗生剤を中止する
  • 腸炎を引き起こしにくいとされるアミノグリコシド系、マクロライド系、ニューキノロン系などの抗菌薬への変更で1/5〜1/4は自然に改善する
  • 毒素の排出を遅延させるため、止痢剤やモルヒネなどの腸管運動抑制作用を持つ薬は用いない
  • 重症度によって治療レジメンは変わる
軽症〜中等症

MNZ 250mgPO q6 あるいは500mgPO q8 10〜14日
VMC 125mgPO q8 10〜14日
・VMC125mgと500mgでは効果に差ががないと報告されている
通常、短期間で症状が改善するので、3〜5日で改善なければ診断を再検討すべき

重症

VMC 500mgPO q8 10〜14日
内服困難なら、
MNZ500mg DIV q6-8
に加えてVMCを経鼻胃管から投与

イレウス例
MNZ静注+VMC500mg注腸 q6
  • VCM注腸 VCM500〜1000mg+生食1〜2L バルーン付きのカテーテルで4〜6時間ごとに投与。60分間貯留させる
  • C.difficil感染症患者では腸内細菌叢の多様性が失われているため、これが回復するのに要する数ヶ月以内は再発しやすい
  • 再発が問題になる例ではベズロトクスマブ(ジーンプラバ)の投与を検討

隔離解除の条件

  • 隔離解除の判定目的でのCDトキシン測定はしてはならない(利用開始後も50%では6週間以上は陽性が持続する)
参考文献)
  1. 安藤朗 他「Clostridium difficile 感染症の現状」日本大腸肛門病会誌 71:456-469,2018
  2. 岡秀昭「感染症プラチナマニュアルver.7」メディカルサイエンスインターナショナル 2018 
  3. JAID/JSC 「感染症治療ガイドライン 2015 ―腸管感染症―」
  4. https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2015_intestinal-tract.pdf
  5. 清水徹「クロストリジウム」化学と生物 Vol. 42, No. 10, 2004
  6. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽膜性腸炎」2008
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1g05.pdf 6.公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会 CDI 診療ガイドライン作成委員会「Clostridioides(Clostridium)difficile 感染症 診療ガイドライン」
    https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_cdi_230125.pdf