誤嚥性肺炎

疫学

  • 加齢に伴うADLや全身機能の低下、脳血管障害や認知障害、神経変性疾患、上部消化管疾患などを背景に有する患者に生じやすい嚥下機能障害を背景に起きる肺炎
  • 65歳以上の日本人の死因では悪性新生物、心疾患についで第3位であり、65歳以上の肺炎の約70%が誤嚥性肺炎(*1)
  • 主に臥床時の不顕性誤嚥が原因。

診断

明確な定義を示したガイドラインは日本呼吸器学会の成人院内肺炎ガイドラインのみであり、「嚥下障害ならびに誤嚥が証明された(あるいは、強く疑われた)症例に生じた肺炎を誤嚥性肺炎とする」としている。
したがって、嚥下障害や誤嚥の評価が不可欠であり、可能であれば嚥下機能検査を行う

評価

誤嚥性肺炎の約3割では治療可能な背景疾患を持つ

  1. 誤嚥を起こす、あるいは悪化させる疾患や状態を検討する最も多いのは神経疾患(脳卒中、認知症、変性疾患など)であり、2番目は逆流を伴う消化器疾患(GERD、食道癌など)、3番目は薬剤性であり、疑わしい薬剤があれば中止する
    ◎治療可能な基礎疾患として頻度の高いものにパーキンソン病とレビー小体型認知症がある。評価して疑わしければL-DOPAチャレンジテストを行う

    L-DOPAの投与
    1. L-DOPAの投与

      内服の場合)L-DOPA200mg錠を粉砕しトロミ水に懸濁
      点滴の場合)ドパストン100mg+生食100mlを30〜60分で投与

    2. 評価
      1. 15分後に行う
      2. 嚥下、固縮、発声について評価する
      3. 効果を認めれば、食前30分にLーDOPA内服を開始する
  2. 肺炎を生じるにいたった背景を考える。口腔内不衛生、オーラルフレイル、COPDなどによる咯出力の低下など
    • 口腔の評価と口腔ケア:口腔ケアにより口腔内細菌が減少し、咳嗽反射が改善する
  3. 嚥下機能評価
    簡易検査
    1. 反復唾液嚥下テスト

    2. 改訂水飲みテスト

    3. 嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査
      1. 嚥下内視鏡検査は機動性と簡便性に優れ嚥下状態の把握や治療的介入において嚥下造影検査に匹敵する方法であるとしている(*11)
      2. 嚥下造影検査は、嚥下障害の評価において最も信頼性の高い検査と位置づけられているが、設備が必要であり、また患者の状態によっては誤嚥を誘発するリスクがある(*11)

治療

  1. 薬物療法
    抗生物質)
    • 誤嚥性肺炎の治療約として第1選択としてはABPC/SBTが用いられることが多いが、CTRXおよびCLDMも非劣性であることが報告されている(*2,*9)
    • 耐性菌のリスクがある場合は、緑膿菌のカバーを考えてPIPC/TAZ、MEPMなどを用いる
    • 誤嚥により発熱が生じても1日で解熱するような場合は、誤嚥に伴う生体反応による発熱のみで肺炎にはいたらなかったと考えられるため抗菌薬投与は不用(*5)
    その他
    • 覚醒度が低ければ、意識障害としての評価を行うべきである
    • 覚醒度が低ければ、ドネペジル、リバスティグミンなどを試みてみてもよい
    簡易懸濁法
    薬剤を経鼻胃管や胃瘻から投薬することでチューブの閉塞が生じやすい
    1. 薬剤を55℃程度の湯に入れて10分間放置する。鉄剤などフィルムコーティングされた錠剤の場合は、あらかじめフィルムに亀裂を入れる。ほとんどのカプセル製剤もこの方法で溶ける
    2. 自然に放冷して投与する
    参考)昭和大学薬学部 倉田なおみ やさしい投薬をめざして
  2. 非薬物療法
    • 無気肺があれば体位ドレナージと呼吸器リハビリ
    • 姿勢が悪いと誤嚥をする。頸部後屈させない姿勢、緊張させない姿勢、隙間がなくバランスがよい姿勢が重要

  3. 嚥下リハビリテーション
    • 高齢者では軽度の侵襲や短期間の安静臥床でも廃用症候群を認めやすい。高齢者の廃用症候群の約9割が低栄養であり、廃用症候群は安静臥床と低栄養の両者による病態といえる(*6)
    • 摂食嚥下機能は使われないと廃用する。絶食による誤嚥予防は短期的には有効だが、長期的には不顕性誤嚥の悪化因子となる可能性がある。食物を食べていなくても、嚥下の訓練を続けることが重要(*5)
    • 「とりあえず安静臥床」ではなく、入院3日以内に理学療法を開始すると生命予後が改善するという報告がある(*3)
    • 「とりあえず絶食」ではなく、一定の条件を満たせば早期に嚥下リハビリテーションを導入し食物摂取を再開すると治療期間の短縮と嚥下機能の維持が期待できるという報告がある(*4)
    • 絶食が必要な場合とは、①意識障害がある、②重度の呼吸不全や循環不全、③喀痰が多量、④口腔内が不衛生、など
    • ただし、栄養摂取が不十分な状態でリハビリを行うとサルコペニアが進行してかえって状態を悪くする可能性が指摘されている(*6)

  4. 誤嚥防止手術
    • 誤嚥防止手術は、気管と食道を分離することにより、難治性誤嚥による下気道感染や窒息を予防できることから、患者および介護者のQOLの改善に寄与する(*11)
    • 声門閉鎖術、気管喉頭分離術、気管食道吻合術、喉頭摘出術がある(*11)
    • ALSの治療ガイドラインでも選択肢のひとつとして挙げられている(*11)

予後

  • 誤嚥性肺炎の長期的予後は非常に厳しい。1年生存率は41.8%、生存期間中央値は254日だったという報告がある(*8)
  • 同報告では年齢75歳以上、寝たきり、高度の痩せ、摂食嚥下障害臨床的重症度分類(dysphagia severity scale; DSS ;*10)での低得点
    背景の疾患としては肺炎・脳梗塞の既往、パーキンソン病が強い予後不良因子だった(下図)

  • 代替栄養を導入すると明確な予後改善効果が認められた(*8) ただし、当該施設では「認知機能良好例、嚥下機能以外の身体機能が保たれている例、特に歩行が可能である例には過去 の介入経験よりQOLを維持しながら長期の生存を達成することが期待できると考えている」としており、胃瘻導入群と非導入群の背景が均一でない可能性がある

  • アメリカの一報告では市中肺炎で急性期病院に入院した65歳以上の患者の30日以内の全死因死亡率は17%、1年以内では38% (*13)

ACP・情報共有

ACPの原則
  • 患者・家族との関係性が安定すれば、元気なうちから話しておくのが望ましい
  • 一度話して決めて終わりではなく、定期的に見直し、ケアに関わる人びとの間で共有することが望ましい。具体的には①嚥下機能が低下してきたとき、②肺炎で入院したとき、③ADLが低下して必要な解除が増えたとき
  • 本人、家族と医療・ケアチームが話し合いを重ねていると、本人の現在の医師がわからなくても、家族を含めた1つのチームで本人にとって何が最善かが共通認識となることが多い (*15)

誤嚥性肺炎に関しては以下のような内容を初期から無理のない範囲で説明しておいたほうがよい

  1. 誤嚥性肺炎は、加齢と基礎疾患による全身状態の衰弱を背景として、嚥下機能、異物の咯出機能がほぼ不可逆的に低下することを背景にして生じてくる
  2. 従って、一度抗生剤治療によって改善しても繰り返す場合が多く、高齢になると一年以内の死亡率は50%を超える
  3. 特に寝たきり、高度の痩せ、パーキンソン病などでは非常に予後が悪い
  4. このように、誤嚥性肺炎を起こしたことは、人生の最後の段階に入りつつあることを意味する
  5. 胃瘻などの代替栄養を行うと予後は改善される可能性がある
参考文献)
  1. Teramoto S, Fukuchi Y, Sasaki H, et al: High incidence of aspiration pneumonia in community and hospitalacquired pneumonia in hospitalized patients: A multicenter, prospective study in Japan, J Am Geriatr Soc, 56: 577–579, 2008..
  2. 吉松由貴「対話で変わる誤嚥性肺炎診療」日経メディカル 2022
  3. Ryo Momosaki et al. Effect of early rehabilitation by physical therapists on in-hospital mortality after aspiration pneumonia in the elderly. Arch Phys Med Rehabil 2015 Feb;96(2):205-9
  4. Keisuke Maeda et al. Tentative nil per os leads to poor outcomes in older adults with aspiration pneumonia. Clin Nutr 2016 35(5) 1147-52
  5. 寺本信嗣「2.反復する誤嚥性肺炎をどう予防するか?」日内会誌 100:3578~3585,2011
  6. 若林秀隆:高齢者の廃用症候群の機能予後とリハビリテーション栄養管理,静脈経腸栄養,28:1045–1050,2013
  7. 坂口紅美子 他「高齢な誤嚥性肺炎患者の生命予後に関連する因子」日摂食嚥下リハ会誌 22(2):136–144, 2018
  8. 塚谷才明 他「誤嚥性肺炎患者の中長期的生命予後と予後因子」日摂食嚥下リハ会誌 24(3):247–257, 2020
  9. 寺原史貴 他「誤嚥性肺炎に対するセフトリアキソンの有効性;傾向スコアを用いたスルバクタム/アンピシリンとの後方視的比較検討」医療薬学43(6) 306―312 (2017)
  10. 西村和子 他「嚥下内視鏡検査を用いない摂食嚥下障害臨床的重症度分類判定の正確性」Jpn J Compr Rehabil Sci Vol 6, 2015
  11. 日本耳鼻咽喉科学会「嚥下障害診療ガイドライン2018年版」金原出版
  12. 迫田綾子 他「看護における食事時のポジショニング教育と汎用化に関する検討」日摂食嚥下リハ会誌 22(3):249–259, 2018
  13. Arnold FW et al: Older Adults Hospitalized for Pneumonia in the United States: Incidence, Epidemiology, and Outcomes J Am Geriatr Soc. 68:1007-1014. 2020.
  14. 吉松由貴「誤嚥性肺炎の主治医力」南山堂 2021
  15. 川口篤也 「終末期肺炎のACP」 治療 vol.100 N011 「終末期の肺炎」2018