感染性心内膜炎

感染性心内膜炎

  • 弁膜や心内膜に疣贅を形成する全身性敗血症性疾患
  • 発症から診断治療までの期間が短いほど内科的治療で治癒する可能性が高くなり、長くなるほど外科治療が必要となり合併症が増える
  • 患者の約半数は初回入院時に手術が必要となる
  • 発症率3-10人/10万人年(結核と同程度)

リスクとなる因子

  • 先天性心疾患
  • 血液透析(一般健康人に比べ20倍以上)
  • 血管カテーテル留置
  • 各種術後、TAVI施行後
  • 埋め込み型心内ディバイス(ペースメーカー、人工弁)
  • 心臓弁膜症、心雑音を伴う僧帽弁逸脱症
  • 口腔内不衛生
  • 薬物中毒

症状

  • 症状は非常に多彩である
  • 起炎菌によって急性の場合と、亜急性の場合がある
  • 重要なポイントは「感染症が疑われるが、感染臓器を特定することが困難」
皮膚症状

Osler結節 手足指部にできる赤紫色の有痛性紅斑
Janeway病変 微小膿瘍とされ手掌や足底に複数カ所認められる
眼瞼結膜の点状出血

  • 現在ではこれらの所見は感染性心内膜炎患者の数%にしか見られず、しかも数日〜1週間程度で消失する
筋骨格症状
  • 関節痛、背部痛、筋肉痛等の症状が20〜30%でみられる
  • 関節痛・関節炎の症状(大関節)、下背部痛、全身の筋肉痛と大腿部・下腿腓腹筋部痛があり、発症初期の症状であることが多い
  • 化膿性脊椎炎は感染性心内膜炎の数%〜30%程度に合併するため、化膿性脊椎炎と診断したら必ず感染性心内膜炎を考慮する

頻度の高い症状や所見を下表にまとめる

診断

  1. 感染性心内膜炎を疑う: 診断のポイントは「まずは感染性心内膜炎を鑑別に挙げること」と言われる

    臨床上、「感染症が強く疑われるが感染部位が不明」という状況にしばしば遭遇するが、その場合は必ず感染性心内膜炎を鑑別する

  2. 感染性心内膜炎鑑別のための初期評価を行う
    血液培養
    必ず抗生剤を用いる前に検体を採取しなくてはならない
    • 血液培養は最低3セット以上採取する
    • 培養の間隔は可能であれば12時間以上間隔をあける
    • 敗血症が疑われるなど抗生剤の投与を急ぐ場合には、10〜20分の間隔で3〜4回以上の血液培養を行う。最初と最後の採血間隔は1時間以上あけなくてはならない
    心内膜障害所見
    経胸壁心臓超音波検査は必須。場合によっては経食道とする
    • 感染性心内膜炎患者の約90%で疣腫が認められる
    • 疣腫検出の感度は自己弁で経胸壁心エコー(TTE)で約70%、経食道心エコー(TEE)では90% 以上、人工弁ではTTE50%、TEE90%以上とされる。特異度は両方とも90%

治療

内科的治療
  • 原則的に全例、感染症専門医へコンサルトする
  • 抗菌薬の選択は原因菌に応じて決定される。安易に選択して投与すべきではない
  • 治療期間は静注で長期間におよぶ(4〜6週間以上)
    培養陰性ではVCM1gq12+GM1mg/kg q8、ABPC/SBT3g q6+GM1mg/kg q8など
外科的治療
代表的な手術適応
  • 進行性の心不全合併
  • 再発性塞栓症合併
  • 弁輪膿瘍合併
  • カンジダ属、緑膿菌、耐性腸球菌など根治困難な起炎菌
  • 血液培養が陰性化しない
参考文献)
  1. 光武耕太郎 他「感染性心内膜炎の診断」日本内科学会雑誌 109巻 9号 2020
  2. 合同研究班「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017年改訂版)」 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf
  3. 岡秀昭「感染症プラチナマニュアル第7版」メディカル・サイエンス・インターナショナル 2018
  4. 大門雅夫「感染性心内膜炎編 2) 内科的治療」日内会誌 105:245~252,2016
  5. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版-感染性心内膜炎 泉知里」日本医事新報社 2022