B型肝炎
  • HBVs抗原陽性者、およびB型肝炎既往の患者(HBs抗体陽性のケースを含む)は、肝臓専門医に経過観察と治療を依頼するか、あるいは十分に連携する
  • 本邦でのHBVの感染率は約1%
  • HBV自身には細胞傷害性がないか、あっても軽度であると考えられている。肝細胞障害は、主としてHBV感染細胞を排除しようとする宿主の免疫応答である細胞傷害性T細胞よる細胞性免疫によって引き起こされる

【HBV感染者の自然経過】

1. 乳幼児期の感染

  1. 無症候性キャリア
    • 出産時ないし乳幼児期にHBVに感染すると、9割以上が持続感染に移行する
    • ウイルスの増殖はさかんで、感染性は高いが、HBVへの免疫応答がなく、肝炎の活動性はほとんどない
  2. 慢性肝炎
    • 成人に達するとHBVに対する免疫応答が盛んとなり肝炎となる
    • 約9割ではHBe抗原のセロコンバージョンに伴いHBVの増殖は抑制されて、肝炎は沈静化し、感染性も低くなる
    • 残りの1割では肝炎が持続して肝硬変へと進展する
    • 肝硬変まで進めば5〜8%/年で肝細胞癌が発生する
  3. 非活動キャリア
    • HBe抗原セロコンバージョンが生じて肝炎が鎮静化した状態になる
    • 定義は、抗ウイルス治療がなされていない状態で、1年以上の観察期間のうち3回以上の血液検査で
      HBe抗原が持続陰性
      ALT値が持続正常(≦30U/L)
      HBVDNA量<2,000 IU/mL
      のすべてを満たす症例
    • セロコンバージョン後にHBV-DNAが減少し、ALTが持続的に正常化した場合は病期の進行や発癌リスクは低い
    • 10〜20%の症例ではHBVが再増殖して肝炎が再燃する
    • 4〜20%の症例ではHBe抗体が消失してHBe抗原が出現する(リバースセロコンバージョン)
    • したがって、この病期においても経過観察は必須である
  4. 臨床的寛解
    • HBs抗原が消失してHBs抗体が出現し臨床的寛解となる
    • 自然経過におけるHBs抗原消失率は年率約1%。
    • この状態でも潜在性HBV感染の可能性があり、治癒とは言えない
    • 抗ウイルス治療がなされていない症例では HBe抗原陽性・陰性を問わずHBコア関連抗原は血清中HBVーDNA量と正の相関がある
    • 臨床においてHBV-DNAを定量する際にはリアルタイムPCR法を使用することが望ましい

成人感染

  • 感染後早期に免疫反応が起こり、急性肝炎後にウイルスが排除されて鎮静化するのが一般的
  • HBVゲノムタイプAでは慢性肝炎に移行することがある

【潜在性HBV感染】

  • HBs抗原が陰性なのに肝組織内や血液中にHBV感染長期間存続している病態
  • 大部分は、HBVが存在していてもウイルス増殖と遺伝子発現が強力に抑制されているためにHBs抗原が陰性化するが、HBVの遺伝子変異によって検出できなくなる場合もある
  • この状態でも、感染性はあり、肝硬変や肝癌発症のリスクである
  • 免疫抑制薬や癌の化学療法により再活性化することもある

(診断)

  • 約80%ではHBc抗体が陽性になる。しかし、20%程度は陰性なので、HBc抗体陰性で潜在性HBV感染を否定できない
  • 肝臓組織の抽出物分析が一番確実な診断法
  • しかし、大部分の症例では肝臓組織を採取できないので、血液を検体にする
  • 一般的に利用可能な標準化された検査法は存在しない
  • 通常はnested PCRが用いられる

【プライマリケアでのHBV評価】

  1. 急性肝障害の評価
    • HBs抗原、IgM-HBc抗体
    • IgM-HBc抗体: HBV感染初期、あるいは慢性肝炎の再燃時に出現して数ヶ月後には陰性化するので急性肝炎の診断に用いられる
  2. HBs抗原陽性で紹介された場合
    • あるいは入院時など、たまたまHBs抗原陽性が判明した場合
    • 病期を判断するために、HBe抗原、HBe抗体、HBc抗体定性あるいはHBVーRNAを測定(上記の病期のチャートを参照)
    • HBs抗原陰性でHBc抗体陽性の場合は感染の既往を示す(治癒を示すわけではない)
  3. 治療適応のない非活動キャリアの経過観察
    • 基本はALTでフォローを行い、上昇があればHBe抗原のリバースセロコンバージョンやHBVーRNA量を測定する
  4. ステロイド、免疫抑制剤、癌化学療法開始前の評価
    • 以下のリンクで評価を行う
    免疫抑制作用のある薬剤使用前スクリーニング
  5. 原因不明の肝硬変、肝臓癌の評価
    • まず、HBs抗原をチェック
    • HBs抗原陽性の場合はHBe抗原、HBe抗原、HBc抗体、HBB DNAを測定し、病期を判断する
    • HBs抗原陽性でも潜在性HBV感染の可能性は否定できないのでHBc抗体およびHBV DNAを測定する

【HBVの肝外症状】

【治療】

  • HBV持続感染者における治療対象を選択する上で最も重要な基準は組織学的進展度、ALT値、およびHBVーDNA量
  • 原則的に無症候性キャリアと、非活動キャリアには治療適応がない
  • しかし、原則に反して治療適応となることがあり、専門医の評価が不可欠

★ 具体的な治療方針については専門医に委ねる

【定期検査】

  • 肝癌診療ガイドラインではサーベイランスの至適間隔に関する明確なエビデンスはないとされている
  • 目安としては次のような提案がなされている
参考文献)
  1. 日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン (第4版)」2022年6月
    https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_v4.pdf
  2. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版 B型肝炎 大澤陽介 他」日本医事新報社 2022.
  3. Giovanni Raimondo et.al Occult hepatitis B virus infection Journal of Hepatology 46 (2007) 160–170
  4. 石井裕正 他「肝疾患診療マニュアル」診断と治療社 1999
  5. 梅村武司 他「B型肝炎再活性化の対策」診断と治療社 日内会誌 107:26~31,2018