パルボウイルスB19(伝染性紅斑)

パルボウイルスB19(伝染性紅斑)

  • 1本鎖DNAウイルスでヒトのみに感染。5類感染症
  • 飛沫感染もしくは接触感染で伝播
  • 50%は家庭内感染
  • 標的細胞は赤芽球前駆細胞
  • 1回感染すると終生免疫が得られる。成人での抗体保有率は約50%で、60歳以上では約80%と言われている
  • 4〜6年間周期で流行。春〜夏にかけてが多い
  • ワクチンはない

症状と検査所見

  • 潜伏期は4〜15日で、1/4は不顕性
  • 感染から1週間後くらいにウイルス血症を起こし、この時期に感冒症状を起こす
  • 典型的な発疹を呈した時期にはウイルス血症はおさまっており、周囲への感染性はほぼない
  • パルボウイルスに対するIgGが産生されると、その交叉反応性により関節痛や皮疹など膠原病を疑わせる症候が出現する場合がある
    以下のように小児か成人かによって病像やリスクが異なる
小児)
  • 4〜10歳が好発年齢
  • 頬部の紅斑や四肢・体幹のレース様紅斑が特徴
成人)
  • 二相性の経過をとる
    1. ウイルス血症に伴う症状
      1. 一般的な感冒症状。通常、上気道症状はない
      2. 網状赤血球数は著減する
    2. 高パルボウイルスIgG抗体の交叉反応性による様々な症状

      関節痛: 左右対称性、小関節主体、下肢優位。浮腫を伴うこともある。20歳以上では高頻度(*3)。数ヶ月遷延することもあり、その場合は関節リウマチとの鑑別が問題となる

      皮疹: 粟粒大〜米粒大の斑状丘疹。四肢中心だが体幹にも認める。頬部の紅斑はまれ。紫斑や水疱、膿疱となることもある。数日で消退する

合併症

(特に基礎疾患のない患者に低頻度): 口腔内潰瘍、血管炎、脳炎、横断性脊髄炎、視神経炎、血球貪食症候群、心筋炎、心膜炎、糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、急性肝炎など。SLEに類似する場合もあり、一時的に分類基準を満たすこともある
検査所見: 血球減少、補体の低下、抗核抗体や抗DNA抗体の陽性化、急性腎障害

自己抗体の抗体価は急性期を過ぎると自然に低下すると報告されている(*4)

妊婦)
  • 妊娠9〜20週では約30%で経胎盤感染を起こし、胎児が高度の貧血や心不全を起こして、胎児水腫(10%以下)や子宮内死亡、流産に至る場合がある
溶血性貧血患者)
  • ウイルス血症期におこる一過性のaplastic crisis
免疫不全患者(HIV感染者など)
  • 感染の遷延化
  • 慢性赤芽球癆

特に基礎疾患がなく、妊婦でもない成人の感染者に対してアドバイスすべきこと

必ず妊娠の有無を確認する

診断

疑うべき状況
  • 小児) 頬部の典型的紅斑
  • 成人) 感冒症状の約1週間後に出現した関節痛、皮疹、血球減少、糸球体腎炎
  • 特にRAやSLEを疑った場合は本疾患を必ず鑑別にいれる
  • 特に成人でIgG抗体による免疫反応を起こして来た場合には、そもそもパルボウイルスB19感染を疑うことが難しい
  • 伝染性紅斑に罹患した小児との3週間以内の接触歴の確認は重要である
  • 上記で示したような合併症で受診した場合には抗パルボウイルスB19IgM抗体の測定を検討する
  • 抗パルボウイルスB19IgM抗体の感度・特異度はとももに90%以上
  • 抗パルボウイルスB19IgM抗体は感染7〜14日には上昇して、2〜4ヶ月持続する
  • 永井らにより、これらの病態で受診した患者についてIgM抗体を測定するべきかを判断するための基準が提唱されている(*)

治療・予後

  • 通常は対症療法のみ
  • 関節痛が強ければNSAIDS
  • 関節痛は通常1〜3週間で消退する
参考文献)
  1. 国立感染症研究書「伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/5th-disease-m/5th-disease-idwrc/11849-idwrc-1526.html
  2. 永井洋子 他「当科で 2 年間に経験した成人ヒトパルボウイルス B19 感染症 15 症例の検討」感染症誌 83:45~51,2009
  3. Ager E. A., et al. : Epidemic erythema infectio- sum. N. Engl. J. Med. 275 : 275, 1326 1331, 1966.
  4. Soloninka C. A., et al. : Anti DNA and an- tilymphocyte antibodies during acute infection with human parvovirus B19. J. Rheumatol. 16 : 777ー781, 1989.
  5. 熊野浩太郎「ヒトパルボウイルス B19 感染症の様々な病態」Jpn. J. Clin. Immunol., 31 (6) 448~453 (2008)
  6. 西澤昭彦 他「多彩な臨床兆候を呈した ヒトパルボウイルス B19 感染症の一成人例