薬剤性過敏症症候群(DIHS)
  • 限られた薬剤を原因とし、薬剤曝露から2~6週後以降、遅発性に発症する稀な重症薬疹
  • 高熱と臓器障害を伴う薬疹で、医薬品中止後も遷延化する
  • 肝臓、腎臓、肺などの臓器障害を伴う
  • 発症2〜3週間後にHHV-6の再活性化を認めることが多い
  • CMVやEBVなども再活性化することがある
  • 本邦における2013年の年間発症率は典型DIHSで1.73人/100万人、非典型DIHSで2.82人/100万人と推定されている(*1)
  • 2021年の調査では典型DIHS24.2%、非典型DIHS38.6%、SJS/TENとのオーバーラップ症例3.6%(*1)
  • 死亡率は5.8%で死因はMRSA肺炎、CMV肺炎、ニューモシスチス肺炎や敗血症が最多(*1)
  • 欧米ではDRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic svmptoms)と称する

【被疑薬】

  • 本邦の2021年の調査においては抗てんかん薬が最多で、ついでST合剤、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)、アロプリノール、レクチゾールが多かった
  • 海外の観察研究では下表のように報告されている(*2)
  • 1997年〜2009年までの症例報告172例のsystemic revieでは下表のように示されている(*3)。必ずしも「限られた」と言い切れるわけではない
  • トリクロロエチレン(有機溶剤)によってDIHSを発症した症例報告もある(*4)
薬剤の解説)
スルファラジン:サラゾピリン
ネビラピン:HIV治療薬
アバカピル:HIV治療薬
ジアフェニルスルホン:合成抗菌薬 レクチゾール
「その他」に含まれる薬剤はAMPC/CVA、アミトリプチン、アトロバスタチン、アスピリン、カプトプリル、セレコキシブ、コデインリン酸、シアナマイド、イブプロフェン、オランザピン、ストレプトマイシンなど多数

【症状と検査所見】

  • DIHSの4徴であるリンパ節腫脹・異型リンパ球・好酸球増加・HHV-6ウイルスの活性化の証明が全て揃うのは40〜70%との報告がある

全身症状)

  • 発熱、リンパ節腫大

皮疹)

  • 原因薬剤中止後も軽快せずに、遷延して重症化しやすい
  • 初期は紅斑丘疹型〜多型紅斑型であるが、紅皮症に進展することが多い
  • 顔面浮腫、鼻翼と口唇周囲の痂皮は特徴的とされる
  • 粘膜病変は軽微
  • 表皮の壊死は見られない(≒皮膚剥離はない)

臓器障害)

  • 肝機能障害、腎機能障害、脳炎、肺炎、甲状腺炎、心筋炎などが報告されている

検査所見)

  • 5%以上の異形リンパ球の出現
  • 好酸球増多(≧1500/μL)、白血球増多(≧11000/μL)
  • 血清TARCは急性期に異常高値になることが多く診断の一助となる
  • 肝機能障害、腎機能障害、ビリルビン値上昇

【ウイルスの再活性化】

  • 発症3週間後前後でHHV-6の再活性化が生じる
  • HHV-6に対する宿主の免疫の過剰反応で多臓器障害が生じる
  • EBV(=ヘルペスウイルス4型)、CMV(=ヘルペスウイルス5型)、HHV-7など他のヘルペスウイルスの再活性化も生じうる
  • CMVが再活性化すると肝障害、腎障害などが生じやすく重症化しやすい。消化性潰瘍、消化管穿孔、心筋炎、肺炎、血球貪食症候群などを合併する
  • 一般的には抗 HHV-6IgG抗体をペア血清で測定し4倍以上の上昇をもって再活性化と判断する。発症2週間以内と4週以降をペアとする
  • 鑑別診断にDIHSが含まれる場合は初期の血清を保存することが推奨される
  • すべての例で検出できるとは限らず、陰性であっても否定はできない

【診断】

  • 臨床症状のみで鑑別することは困難
  • 発症前の2〜6週間に新規に開始した薬剤を詳細に聴取することが最も重要
  • 薬剤中止後も2週間以上にわたって症状が遷延するのが特徴であり、これは診断基準の必須項目である
  • 従って、早期に確定診断することはできない。以下の診断基準の1、2、3、5を満たせばDIHSを想定すべき
  • 診断基準の項目は全てが同時に存在するとは限らず、少しずつ時期を違えて出現する場合が多い

早期には、左右対称性の全身性紅斑、発熱、リンパ節腫脹、異形リンパ球、肝障害など麻疹、風疹や伝染性単核球症との鑑別が問題となる

伝染性単核球症

麻疹

風疹

【治療】

  • 出来るだけ早期に想定して原因薬剤を中止することがが最重要
  • 軽症例では被疑薬の中止と補液などの支持療法で経過観察することもできる

ステロイド)

  • PSL0.5〜1.0mg/kg/dayで開始して1〜2週間維持 6ー8週間かけて漸減
  • 急激な減量は症状の増悪を招きやすい
  • 重症化すればステロイドパルス療法

その他)

  • 免疫グロブリン大量療法や血漿交換が試みられることもある
  • DIHSでは多剤感作が生じる場合が多いので、NSAIDSや抗生剤などの予防投与は可能な限り避ける
  • CMV感染症では ガンシクロビル、ガンシクロビル耐性であればホスカルネットを用いる
参考文献)
  1. 薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン策定委員会「薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン 2023」
  2. S H Kardaun et.al. Drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms (DRESS): an original multisystem adverse drug reaction. Results from the prospective RegiSCAR study Br J Dermatol. 2013 Nov;169(5):1071-80.
  3. Patrice Cacoub et.al.The DRESS Syndrome: A Literature Review Am J Med. 2011 Jul;124(7):588-97.
  4. 福地達 他「トリクロロエチレン曝露による薬剤過敏症症候群の1例」日内会誌 106:598~604,2017
  5. 加藤優花里 他「ST合剤による薬剤性過敏症症候群(DIHS)の経過中にサイトメガロウイルス食道炎を合併し不幸な転帰をたどった1例」日内会誌 109:951~959,2020
  6. 東直行 他「薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS)の1例」日本医科大学医学会雑誌 2008;4:205―209