腸管出血性大腸菌

腸管出血性大腸菌

疫学

  • 様々な食品を介して経口感染する
  • およそ50の菌が侵入で感染が成立すると考えられている
  • 牛、鹿、豚、犬、猫などに保菌が認められている。これらの動物の排泄物、あるいは糞便を用いた堆肥などを介して食品を汚染する
  • 牛タタキ、ユッケ、ローストビーフ、レバーの生食、イクラのしょうゆ漬け、各種野菜サラダなどからの発生例が報告されている
  • 小児、高齢者、妊産婦ではハイリスクである
  • 1997年以降、集団事例の報告数は減ったものの、散発事例における患者数はほぼ横ばい状態で年間千数百人の患者が発生している

分類

病原性大腸菌は5種類に分類されている

  1. 腸管病原性大腸菌(EPEC)
  2. 腸管組織侵入性大腸菌(EIEC)
  3. 腸管毒素性大腸菌(ETEC)
  4. 腸管出血性大腸菌(EHEC)
  5. 腸管凝集接着性大腸菌(EAggEC)

O血清型による分類

  • EHECは赤痢菌の産出する毒素に類似したベロ毒素を産出する
  • 腸管出血性大腸菌のO血清型は、O157がもっとも 多く、O26とO111がそれに次ぐ
  • 本邦で確認されたベロ毒素を産生するEHECのO血清型はO157以外では、O1,O2,O18,O26,O103,O111,O114,O115,O118,O119,O121,O128,O143,O145,O157,O165がある

症状

  • 全く症状がないものから、頻回の水様便、著しい血便、激しい腹痛などを起こし溶血性尿毒症症候群を呈する重篤な例まで様々
  • 感染の機会のあった者の約半数では接触機会から3〜5日の潜伏期をおいて、頻回の水様便で発病する。さらに激しい腹痛をともなって著しい血便を呈する(出血性大腸炎)こともある
  • 発熱はあっても、37℃台が多く、多くは一過性
  • O157感染であれば90%以上に血便を認める(100%ではない)
  • 腸管出血性大腸菌による有症状者の約6〜7%では、下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内(多くは5~7日後)に、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic Uremic Syndrome:HUS)または脳症などの重症合併症が発症する

診断

  • 腹痛とともに頻回の水様便や血便があるが発熱は微熱程度で一過性であるものは可能性がある
  • 初期の診断は便培養あるいは糞便中のベロ毒素の検出。どちらの場合でも便培養は必ず提出する

    (糞便中)大腸菌ベロ毒素迅速検査 (大腸菌ベロトキシン定性)  所用日数 2〜3日  BML

  • 便培養では、まず病原性大腸菌を確認し、ついでベロ毒素の産出についてPCRで確認される
  • O抗原凝集抗体等でも診断が可能であるが、外注の検査会社では取り扱われていない(2023年10月現在)

治療

  • ST合剤等を使用した場合にHUSが悪化したという症例報告や、抗菌剤の使用により臨床経過に有意差がなかったという研究結果が知られている
  • 本邦では抗菌薬を使用した群で、早期投与された者ほどHUSの発症率が低かったという報告がある
  • このように、抗菌剤投与の是非については意見が割れている
  • 抗菌薬投与がHUSリスクとなるとするメタ解析も報告されている(*4)
以下は個人的見解
  • 全症例に抗生剤を投与する必要はない。小児、高齢者、妊婦や血便などの症状が強いものに対しては、出来るだけ早期に抗菌薬を開始する。ただしST合剤は避ける

小児 ホスホマイシン(40~120mg/kg/日を3~4回に分服)、ノルフロキサシン、カナマイシン
成人 ニューキノロン、ホスホマイシン(2〜3g/日を3~4回に分服)
抗菌剤の使用期間は3〜5日間とする。抗菌剤を使用しても消化管症状が直ちに消失することはない

陰性確認

厚労省通知 「感染症の病原体を保有していないことの 確認方法について」(平成11年3月30日健医感発第43号)

  • 患者については、24時間以上の間隔を置いた連続2回(抗菌剤を投与した場合は服薬中と服薬中止後8時間以上経過した時点での連続2回)の検便によって、いずれも 病原体が検出されなければ病原体を保有していないものと考えてよい
  • 無症状病原体保有者については、1回の検便によって菌陰性が確認されれば病原体を保有していないものと考えてよい

重症合併症

  1. HUS
    • (1)破砕状赤血球を伴う貧血、(2)血小板減少、(3)腎機能障害を3徴とする重篤な合併症
    • O157感染による有症者の約6~7%でHUSを生じる。典型的な出血性大腸炎となれば約10%にHUSや脳症を続発する
    • 下痢などの初発症状発現の数日から2週間以内(多くは5~7日後)に発症することが多い
    • 激しい腹痛と血便を認める症例の方が合併症を起こしやすいが、血便がなくても起こることがある
  2. 脳症
    • 予兆は頭痛、傾眠、不穏、多弁、幻覚などで、これらが見られた場合には数時間から12時間位の間に痙攣、昏睡などの重症脳神経系合併症が起こる可能性を考え、それに備えなければならない

    対応方針 *1

    • 外来では血便や腹痛が激しくなければ、乏尿と浮腫に注意しながら末梢血検査、血液生化学検査、尿検査等を1~2日に1回程度(少なくとも尿検査は毎日)行い、経過を観察>
    • 血便や腹痛が激しいとき、あるいは上記の症状や異常検査所見が見られたときは入院しての治療が望ましい>
    • 経過観察において注意すべき所見を以下に示す

個人的見解

  • 小児、高齢者、妊婦、明かな血便を認めた患者については上の方針を守る
  • 上記に当てはまらない患者であれば2日おきの評価までは行わない。状況に合わせて3〜7日おきの評価を発症後14日間まで続ける

溶血性尿毒症症候群(HUS)については、「疾患一覧」→「血液」より閲覧可

参考文献)
  1. 厚生労働省「一次、二次医療機関のための腸管出血性大腸菌(O157等)感染症治療の手引き(改訂版)」
    https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/0908/h0821-1.html
  2. 一色賢司「腸管出血性大腸菌による食中毒とその予防」日本調理科学会誌 Vol44No.4 315~3166(2011)
  3. 国立感染研究所「腸管出血性大腸菌(EHEC) 検査・診断マニュアル 2022年10月改訂」
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/EHEC20221006.pdf
  4. S.B.Freedman et.al. Shiga Toxin-Producing Escherichia coli Infection, Antibiotics, and Risk of Developing Hemolytic Uremic Syndrome: A Meta-analysis Clin Infect Dis. 2016 May 15;62(10):1251-1258. doi: 10.1093/cid/ciw099.
    https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide01_09.pdf
  5. 国立感染研究所「腸管出血性大腸菌感染症とは」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/439-ehec-intro.html