腸間膜虚血症

腸間膜虚血証

【疫学と分類】

  • 発症早期の症状は非特異的なため、高齢者、心疾患、動脈硬化など高リスク患者の腹痛では必ず小腸虚血性疾患を念頭に置くことが重要。診断が遅れれば致死的となる場合が多い
  • 血流障害が原因となって腸管に虚血を生じる。一過性のものから、急性の閉塞、慢性の狭窄等の病態がある。閉塞すれば腸管壊死をきたす
  • 小腸が虚血に耐えうる時間は3〜6時間
  • 急性腹症の約1%を占める。診断が遅れて進行すると重篤な合併症を引き起こし非常に高い致死率となる
  • 発症形式から急性型,慢性型、障害される血管部位から動脈型、静脈型、非閉塞性、また虚血の原因や腸管虚血範囲など様々な形式で分類される
  • 急性腸間膜動脈閉塞症,急性腸間膜静脈血栓症,非閉塞性腸虚血(non-occlusive mesenteric ischemia:NOMI)、腹部アンギーナ、虚血性腸炎などがある

【診断と治療】

上腸間膜動脈塞栓症

(基礎疾患) 心臓弁膜症、心房細動
(症状) 突然の激しい持続性腹痛、嘔吐、血性下痢
(理学所見) 初期は腹膜刺激症状に乏しい
(診断) 造影CT:動脈相で小腸の血流欠損とSMAの閉塞
(治療) 発症数時間以内に診断すれば血栓溶解療法やカテーテルによる血栓除去の適応があるが、通常は緊急手術。
(予後) 死亡率は50〜90%と非常に高い。救命できても短腸症候群は不可避である

上腸間膜動脈血栓症

(基礎疾患) 喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高齢者、虚血性心疾患の既往
(症状) 塞栓症に比べて比較的緩徐に生じることが多い。激しい痛みも少ない。腹部アンギーナでは食事摂取後に腹痛を主とする腹部症状
(理学所見) 初期は腹膜刺激症状に乏しい
(診断) 造影CT:SMA根部の狭小化や解離
(治療) 腸管壊死に至れば手術が必要だが、慢性に経過している場合は側副血行路も発達するのでバイパス術が行われる。さらに、心臓と同様なカテーテル治療もなされる
(予後) 不良だが、広範な小腸切除に至らない場合はよい

非閉塞性腸虚血(NOMI)

(基礎疾患) 喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高齢者、虚血性心疾患の既往
(症状) 腹痛は8割弱にみられる
(理学所見) 圧痛、筋性防御、腸雑音低下などみられることがあるが頻度は高くない
(診断) gold standardは血管造影。放射線医でないと診断は困難
(治療) 診断直後より血管拡張薬の動脈注射を行う。腸管壊死が起これば開腹術
(予後) 死亡率は50%〜80%。

腸間膜静脈血栓症

(基礎疾患) 血栓症の既往、経口避妊薬の服用、高齢。あれば必ず本疾患を鑑別に挙げる
(症状) 臍周囲の強い疝痛、または鈍痛。嘔気・嘔吐や下痢、血便を伴うこともある。診断が遅れると汎発性腹膜炎となる
(理学所見) 経過とともに急性腹症様となり反跳痛を伴う
(診断) 腹部超音波検査や腹部造影CTで限局性の小腸壁肥厚
(治療) 一過性のものでは保存的治療、狭窄が強ければ部分的小腸切除

参考文献)
  1. 堅田和弘 他「虚血性腸管障害(虚血性大腸炎を除く)」日本医事新報 Webコンテンツ 2017-03ー28登録
  2. 辻川知之 他「虚血性疾患,その他;腸間膜動静脈血栓症,虚血性小腸炎,NEMOなど」日内会誌 100:78~84,2011