大動脈解離

大動脈解離

【定義】

大動脈壁が中膜の レベルで2層に剥離し、大動脈の走行に沿ってある長さをもち2腔になった状態

  • 救急外来受診者の0.1%と稀
  • 初診時に正しく診断できるのは30%程度と少ない
  • StanfordA型であれば1時間あたり1%ずつ死亡するので迅速な診断が重要

【疫学と分類】

  • 年間発症率は10人/10万人/年
  • 男女とも70歳代に発症のピークがある
  • 冬に多く夏に少ない。また、時間的には日中に多く、夜間は少ない。特に午前6〜12時に多い
  • 形態的には紡錘状と嚢状に区分される

  • 解離の範囲による分類にはStanford分類とDeBakey分類がある


【症状】

★大半の症例では突然発症の過去に経験したことのない胸部・背部・腹部の激痛(引き裂かれるような痛み)

  • 解離した大動脈の心嚢内穿破により心タンポナーデを発症することがあり、死因としては最も多い
  • 約6%は無痛性
  • 9~20%は典型的疼痛がなく失神をきたす。従って、失神が主訴でも必ず鑑別する必要がある

★約1/3の症例で発熱を伴い、これによって診断の遅れが生じやすい。大動脈解離を疑う所見のある症例では発熱を主訴としてはいけない

  • 解離が血管の分岐部に及ぶ場合には、様々な血管の虚血症状が起こりえる
    • 冠動脈虚血:3〜7%に生じ、胸痛、房室ブロックなど冠動脈疾患にみられる症状を呈する
    • 脳血管:3〜7%に生じる。ほとんどの場合、腕頭動脈や左総頚動脈狭窄や閉塞から起こる
    • 脊髄虚血:下肢対麻痺は大動脈解離全体の約4%に発症する。胸椎下部から腰椎上部の血流が障害されやすい
    • 虚血:約7%に発症し乏尿や血尿を呈する
    • 腸管虚血:合併率は2〜7%。腸管虚血を合併した大動脈解離は予後不良である
    • 四肢虚血:7〜18%に合併する。下肢脈拍消失や下肢虚血症状が生じる
    img src="https://opendx.sozokai-dx.com/storage/outpatient/disease/WighgXYemDoeML80TMUUSTJLE4id8fgv.jpg" style="width: 50%;">

【診断】

① ADDスコアによる評価
  • 臨床所見とD-ダイマーを用いて初期評価を行う
ADDスコア


② 画像診断
胸部単純XP)
  • 縦隔拡大≧8cm、あるいは椎体中央〜大動脈陰影左縁の距離>5cmは大動脈解離を疑う
CT)
  • 最終的には可能な限り造影CT、造影が困難な場合は単純CTにて診断を確定させる
超音波検査)
  • 超音波検査、特に経食道エコーは非常に有用(感度98%特異度95%)
  • 経胸壁エコーの感度はStanfordA型でも80%程度
  • 腹部にまで解離が及んでいる場合は通常のエコーでも診断できる場合がある

【治療】

    (急性期)
    ・収縮期血圧を100〜120mmHg、脈拍を60回/分以下にコントロール。第1選択約はβ遮断薬。不十分な場合は硝酸剤やCa拮抗薬を併用
    ・外科的手術が原則
    ・近年ではステントなどの血管内治療もなされるようになってきている
    (慢性期)
    ・血圧管理が最重要。目標は130/80mmHg未満
    ・入院イベント、瘤径拡大の抑制などのエビデンスがあるのはβ遮断薬のみ
循環器疾患の手術適応

マルファン症候群
参考文献)
  1. 日本循環器学会 日本心臓血管外科学会 日本胸部外科学会 日本血管外科学会「大動脈瘤・大動脈解離ガイドライン(2020)」
  2. Peiman Nazerian et.al. Diagnostic Accuracy of the Aortic Dissection Detection Risk Score Plus D-Dimer for Acute Aortic Syndromes: The ADvISED Prospective Multicenter Study. Circulation. 2018;137(3):250-258
  3. V Tchana-Sato et al.:Ruptured abdominal aortic aneurysm Rev Med Liege 2018 May;73(5-6):296-299.