肥大型心筋症

肥大型心筋症

    ・左室ないし右室心筋の肥大と、心肥大に基づく左室機能低下を特徴とする疾患群
    ・世界的に有病率は500人に1人と推定され、人種差も強くないとされている
    ・近年では年間死亡率は0.5〜1.5%程度。死因としては不整脈が31.8%、心不全が21.3%。心房細動に伴う塞栓症による脳卒中も多い
    ・若年者は突然死が多く、壮年~高齢者では心不全死や塞栓症死が主体
【分類】
    閉塞型肥大型心筋症(HOCM)  安静時、あるいは運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の左室流出路格差を認める
    閉塞型肥大型心筋症  安静時、あるいは運動などの生理的な誘発でも30mmHg以上の左室流出路格差を認めない
    心室肘部閉塞性心筋症(MVO)  肥大に伴い心室肘部での内腔狭窄がある場合。約25%が心室瘤を合併する。これは心室頻拍の原因となったり左室内血栓による塞栓症の原因になる
    心尖部肥大型心筋症(apical HCM)  心エコーで乳頭筋レベル以下の心尖部に限局して壁肥厚を認める。日本では心筋症全体の15%程度を占める
    拡張相肥大型心筋症(D-HCM)  肥大型心筋症の経化中に、肥大した心筋壁厚が減少・韮薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下をきたし、拡張middle心筋症様病態を呈した状態
【症状】
    胸部症状)  労作時息切れ、呼吸困難、動悸
    脳症状) 立ちくらみ、眼前暗黒感、失神(血管拡張薬の内服、起立、飲酒時などに好発する
【診断】

    ・診断の確定には「二次性心筋症」を除外する必要がある

    ・心エコーないしは心臓MRIでの心筋肥厚所見と、家族歴、症状、遺伝子検査などを含めた総合診断である

    ① 胸部症状、脳症状などから疑って心臓の画像評価を行い、肥大型心筋症を疑うにたる所見を得る
    ② 二次性心筋症を除外する
    ③ 心筋生検、遺伝子検査などの特殊検査と家族歴、症候などを総合して診断を確定する


    【治療】
      ・競技スポーツなどの過激な運動は禁止する
      ・大部分の症例は無症候であり原則として薬物療法の適応にはならない
      ・若年症例や遺伝的背景が濃厚な症例では最初の臨床イベントが突然死のことも少なくない。無症候と判断しても一次予防としてのICD(植込み型除細動器)の適応につき検討すべき場合もある
      ・息切れ、全身倦怠感などの症状に対しては、第一選択薬としてβ遮断薬
      ・特に心房細動および心室性不整脈(非持続性あるいは持続性心室頻拍)を合併した場合には薬物療法を行う。薬物療法抵抗性の場合はカテーテルアブレーションあるいはICDが選択
      ・動悸などの症状に対してはβ遮断薬やカルシウム(Ca)拮抗薬
      ・心房細動に対する薬物療法はアミオダロンあるいはI群抗不整脈薬が選択。血栓塞栓症予防として抗凝固薬内服は必須
      ・閉塞型肥大型心筋症は、肥大型心筋症の70%程度を占める。β遮断薬、Ca拮抗薬、シベンゾリンまたはジソピラミドなど。血管拡張作用のある薬剤や陽性変力作用のある薬剤の使用は禁忌
      参考文献)
      1. 日本循環器学会/日本心不全学会「心筋症診療ガイドライン(2018年改定版)」
      2. 前川裕一郎 「肥大型心筋症[私の治療]」Web医事新報 2020-5-16登録
      3. 肥大型心筋症(指定難病58」難病情報センター