循環器疾患の手術適応

【胸部大動脈瘤】

  • 正常径は30mmまでであり、45mm以上のもの、あるいは嚢状拡張のみられるものが胸部大動脈瘤である
  • 破裂・解離リスクは上行大動脈瘤では60mm、下行大動脈瘤では70mmで急激に高くなる


【腹部大動脈瘤】

  • 正常径は20mmまでであり、30mm以上のもの、あるいは嚢状拡張のみられるものが腹部大動脈瘤である
  • 破裂症例では救急搬送されても8割以上が救命不能
  • 女性の場合は最大径45mmから侵襲的治療を考慮する

【大動脈弁狭窄】


  • 強い手術適応があるのは有症候性重症AS
  • 無症候性ASではいくつかの条件を満たしたものでは比較的強い手術適応があるが、有症候性の場合と比べて一般に推奨クラスもエビデンスレベルも低い
  • 有症候性ASに手術を行わない場合の平均余命は、狭心痛出現後が45ヵ月、失神後が27ヵ月、心不全後が11ヵ月というデータが報告されている
  • 無症候性ASでは突然死のリスクは年1%程度とされ、無症状のままAVRを受けることなく経過をみることができた場合の5年生存率は93%と報告されている
  • <
  1. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル B
    • 有症候性重症AS患者に対する手術介入
  2. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル C 
    • 無症候性重症ASを有し、心機能低下(LVEF < 50%)を認める患者に対する手術介入
  3. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル C 
    • 無症候性重症ASを有し、他の開心術を施行する患者に対するSAVR
  4. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル C
    • 無症候性重症ASを有し、運動負荷試験で症状を呈する患者に対する手術介入
  5. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル C
    • 無症候性重症ASを有し、運動負荷試験で有意な血圧低下を呈する患者に対する手術介入
  6. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル B
    • 無症候性超重症AS(Vmax≧5m/秒、mPG≧60mmHg、またはAVA<0.6cm2)を有し、低手術リスクの患者に対する手術介入
  7. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル C
    • 無症候性重症ASを有し、ASによる著明な肺高血圧(収縮期血圧<60mmHg以上)を認め、低手術リスク * の患者に対する手術介入
  8. 推奨クラス Ⅱb エビデンスレベル C
    • 無症候性重症ASを有し、急速に進行(Vmax年0.3m/秒以上増加)する低手術リスクの患者に対する手術介入
  9. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル C
    • 無症候性中等症ASを有し、他の開心術を施行する患者に対するSAVR

TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation:経カテーテル的大動脈弁植え込み術)

  • より高齢で(80歳以上)、再手術の患者などを含むハイリスクの患者を対象に行われている
  • 2016〜2017年には中等度リスク患者におけるTAVIとSAVR のランダム化比較試験が2つのデバイスで発表され、生命予後においてTAVIのSAVRに対する優越性、もしくは非劣性が証明された
  • 2019 年には低リスク患者におけるTAVIとSAVRのRCTがやはり2つのデバイスで発表され、死亡、脳梗塞、心不全再入院などの複合エンドポイントにおいて、TAVIのSAVRに対する優越性、もしくは非劣性が証明された

【頸動脈狭窄】

1. 頸動脈狭窄

  1. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル A
    • 狭窄率50%以上の症候性頸動脈狭窄に対しては、非代償性心疾患や脳神経障害のリスクが高くなる手術既往や外照射により頸部組織が瘢痕化しているなどのCEAの禁忌がない限りCASよりもCEAを選択する
    • 周術期合併症と死亡が6%以下でなければ、手術の有効性は失われる
  2. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル B
    • 狭窄率50%以上の症候性頸動脈狭窄で永久気管瘻を有する場合、頸部組織が以前の手術や外照射のため瘢痕化し線維化している場合、脳神経障害の既往がある場合、第2頸椎より末梢まで病変が存在する場合は、CEAよりCASを 考慮する
  3. 推奨クラス Ⅰ エビデンスレベル A
    • 症候性頸動脈狭窄で手術適応の患者には、症状出現後2週間以内に手術を行う
  4. 推奨クラス Ⅱb エビデンスレベル B 
    • 狭窄率50%以上の症候性頸動脈狭窄で治療できないCAD、うっ血性心不全、あるいは慢性閉塞性肺疾患を伴っている患者では、CEAよりCASを行うことを考慮してもよい
  5. 推奨クラス Ⅲ エビデンスレベル A 
    • 狭窄率50%未満の患者の手術は行うべきではない

2. 無症候性頸動脈狭窄

  1. 推奨クラス Ⅱa エビデンスレベル B
    • 狭窄率60%以上の無症候性頸動脈狭窄に対しては、3~5年の生命予後が期待され、周術期脳梗塞/死亡が3%以下と考えられる場合、CEAを考慮する
    • 周術期合併症と死亡が6%以下でなければ、手術の有効性は失われる
  2. 推奨クラス Ⅱb エビデンスレベル B
    • 狭窄率60%以上の無症候性頸動脈狭窄に対してのCASの有用性を支持するエビデンスは十分ではなく、併症率が3%以下であることが証明されたハイボリュームセンターにおいて、慎重に選択された患者に対してのみ考慮してもよい
  3. 推奨クラス Ⅲ エビデンスレベル C
    • 無症候性頸動脈閉塞に対する血行再建は行うべきではない

注)
症候として代表的なものは一過性黒内障(片目が見えなくなる)、一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞

CEA 頸動脈内膜剥皮術
CAS 頸動脈ステント留置術

参考文献)
  1. 2020年改訂版 「大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン
  2. 2020年改訂版 「弁膜症治療のガイドライン」 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン
  3. 2022年改訂版「末梢動脈疾患ガイドライン」日本循環器学会/日本血管外科学会合同ガイドライン