多発血管炎性肉芽腫症

【概念と疫学】

  • 以前は、ウェゲナー肉芽腫症と呼ばれていた
  • 病理組織学的に
    1. 全身の壊死性肉芽腫性血管炎
    2. 上気道と肺を主とする壊死性肉芽腫性炎
    3. 半月体形成腎炎を呈し
    その発症機序に抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)が関与する血管炎症候群
  • 無治療あるいは診断が遅れると極めて予後が悪いが、発症早期に免疫抑制すると効率に寛解導入できる
  • 好発年齢は40〜60歳であるが、小児や高齢者でも発症しうる
  • 上気道の細菌感染を契機に発症することが多い

【症状】

  • 全身症状としては、発熱、倦怠感、食欲低下、体重減少など
  • 局所症状は以下のようである
    1. 上気道症状:(E ear and nose) 眼、耳、鼻、咽頭、副鼻腔の症状
      膿性鼻漏、鼻出血、鞍鼻、中耳炎、視力低下、咽喉頭潰瘍
    2. 肺症状:(L lung)壊死性肉芽腫性炎症
      血痰、呼吸困難
    3. 急速進行性腎炎:(K kidney)巣状分節性壊死性糸球体腎炎
    4. その他:(全身の中・小動脈の壊死性血管炎)
      紫斑、多発関節痛、多発単神経炎など
  • 通常は(1)→(2)→(3)の順序で起こる
  • (1)、(2)、(3)全ての症状が揃っていれば全身型、2つ以下のものを限局型とする

【検査所見】

  • ANCA: 日本人ではMPO-ANCAとPR3-ANCAがほぼ1:1の割合で陽性となる
  • 炎症反応: CRP上昇、γグロブリン増加、血沈亢進、血算での白血球数・血小板数増加
  • 腎機能: BUN、CRN上昇、eGFR低下。尿蛋白、血尿、赤血球円柱、顆粒円柱
    • RPGNが多いので経時的にeGFRをフォローすべき
胸部X線
  • 肺胞出血:  肺胞出血を示す非区域性の浸潤影
  • 間質性肺炎: 両側下肺野優位に網状影や輪状影

【診断】

はじめからGPAを診断するのではなく、まず頻度の高い血管炎以外の疾患を除外したのち血管炎としての評価をはじめる

  1. 感染、悪性腫瘍、他の膠原病による血管炎、薬剤性の除外
    • 感染の中で特に感染性心内膜炎が鑑別場重要で有、血液培養および心エコーを行い、歯科治療の既往は必ず確認する
    • 悪性腫瘍の鑑別には頭部、胸部腹部CTなど全身的な画像診断が必須であり、さらに必要に応じて上部下部消化管内視鏡、腰椎穿刺などを行う
  2. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)を除外する
    • 気管支喘息および好酸球増多*がなければ除外できる
  3. 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)を除外する
    • PR3-ANCAが陽性であっても必ずしも確定診断とはならず、陰性であっても除外できない
    • 除外のためには組織所見の評価がほぼ必須
  4. 診断基準に基づいて顕微鏡的多発血管炎(MPA)を診断する

*好酸球増多は>1500/μlであるか、あるいは白血球分画の10%超

【治療】

  • 基本はステロイド療法と免疫抑制剤で、さらに血漿交換療法を行うこともある

【予後】

  • ステロイドとシクロホスファミドの併用で多くの症例が寛解できるようになってきている
  • 維持療法中の再燃も多い
  • 主たる死因は重症感染症
参考文献)
  1. 合同研究班「【ダイジェスト版】血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改定版)」https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
  2. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版」日本医事新報社 2022: 多発血管炎性肉芽腫症(GPA) 針谷正祥
  3. 有村義宏「ANCA 関連血管炎診療の進歩 ‒Overview‒」日サ会誌 2019, 39(1) 19-24
  4. 有村義宏「血管炎の最近の話題 ―ANCA関連血管炎を中心に―」日内会誌 107:115~123,2018
  5. 難病情報センター「多発血管炎性肉芽腫症(指定難病44)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/4012
  6. Sada KE, Yamamura M, Harigai M, et al. Different responses to treatment across classified diseases and severities in Japa- nese patients with microscopic polyangiitis and granulomatosis with polyangiitis: a nationwide prospective inception cohort study. Arthritis Res Ther 2015; 17: 305.