顕微鏡的多発血管炎

顕微鏡的多発血管炎

【概念と疫学】

  • 主に毛細血管、細静脈や細動脈などの小血管に生じる壊死性血管炎だが、中型動脈にも生じることがある
  • 血管壁の破綻、狭窄・閉塞によりいかん血管の分布する臓器に虚血性変化が生じる
  • 免疫沈着物をわずかに認めるか、あるいは全く認めず、肉芽腫性炎症は認めない
  • ほとんどの例で壊死性糸球体腎炎を認め、しばしば肺の毛細血管炎を認める
  • 本邦では間質性肺炎が45%と多い
  • 本邦での患者数は2017年の報告で8669人
  • 過半数が75歳以上、好発年齢は65歳以上、男女比はほぼ1:1
  • 二酸化ケイ素、感染症、薬剤などの関与が示唆されている。感染症ではウイルス、グラム陰性桿菌、薬剤ではプロピルチオウラシル(プロパジール、チウラジール)、ミノサイクリン、ヒドララジン(アプレゾリン)などの報告がある

【症状】

  • 全身症状としては、発熱、倦怠感、食欲低下、体重減少など(約70%)、高血圧(約30%)
  • 局所症状は以下のように非常に多彩
  • リウマチ性多発筋痛症に類似した筋肉痛で発症することがある

【検査所見】

  • MPO-ANCA: 日本人では90%以上で陽性となる
  • 炎症反応: CRP上昇、γグロブリン増加、血沈亢進、血算での白血球数・血小板数増加
  • 腎機能: BUN、CRN上昇、eGFR低下。尿蛋白、血尿、赤血球円柱、顆粒円柱
    • RPGNが多いので経時的にeGFRをフォローすべき
胸部X線
  • 肺胞出血:  肺胞出血を示す非区域性の浸潤影
  • 間質性肺炎: 両側下肺野優位に網状影や輪状影

【診断】

◎ 次の順序で評価・診断を進める

  1. 感染、悪性腫瘍、他の膠原病による血管炎、薬剤性の除外
    • 感染の中で特に感染性心内膜炎が鑑別場重要で有、血液培養および心エコーを行い、歯科治療の既往は必ず確認する
    • 悪性腫瘍の鑑別には頭部、胸部腹部CTなど全身的な画像診断が必須であり、さらに必要に応じて上部下部消化管内視鏡、腰椎穿刺などを行う
  2. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)を除外する
    • 気管支喘息および好酸球増多*がなければ除外できる
  3. 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)を除外する
    • PR3-ANCAが陽性であっても必ずしも確定診断とはならず、陰性であっても除外できない
    • 除外のためには組織所見の評価がほぼ必須
  4. 診断基準に基づいて顕微鏡的多発血管炎(MPA)を診断する

*好酸球増多は>1500/μlであるか、あるいは白血球分画の10%超

【治療】

  • 基本はステロイド療法と免疫抑制剤で、さらに血漿交換療法を行うこともある

【予後】

  • 早期に診断し、適切に寛解導入を行えば、大部分は寛解する
  • 本邦では寛解導入率89.4%、死亡率10.6%、末期腎不全移行率 ・治療が遅れると特定の臓器障害が残ることもある
  • 再燃も少なくないので、定期的に専門医の評価が必要
参考文献)
  1. 合同研究班「【ダイジェスト版】血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改定版)」https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_isobe_h.pdf
  2. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版」日本医事新報社 2022: 顕微鏡的多発血管炎(MPA) 亀田秀人
  3. 有村義宏「ANCA 関連血管炎診療の進歩 ‒Overview‒」日サ会誌 2019, 39(1) 19-24
  4. 有村義宏「血管炎の最近の話題 ―ANCA関連血管炎を中心に―」日内会誌 107:115~123,2018
  5. 難病情報センター「顕微鏡的多発血管炎(指定難病43)」https://www.nanbyou.or.jp/entry/86
  6. Sada KE, Yamamura M, Harigai M, et al. Different responses to treatment across classified diseases and severities in Japa- nese patients with microscopic polyangiitis and granulomatosis with polyangiitis: a nationwide prospective inception cohort study. Arthritis Res Ther 2015; 17: 305.