疾患
掌蹠膿庖症
掌蹠膿庖症(palmoplantar pustulosis)
◎ 基本的には、感染や接触性皮膚炎以外が原因となる膿疱症を疑った段階で皮膚科に紹介すべき
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・掌蹠に限局して無菌性膿疱を生じる原因不明の皮膚疾患
・下肢とくに膝、頭部などに生じることもある
・中年以降に好発する
・男性にくらべて女性が多い
・日本では約14万人の患者がいると推定されている
・喫煙、細菌性扁桃炎、齲齒、歯科金属アレルギーなどが原因として関与する例がある
・増悪と寛解を繰り返し、大部分の例では長期間の経過となる
・10%程度で掌蹠膿疱症性骨関節炎を合併する
【原因】
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・原因は不明であるが、以下の要因との関連が認められる
・喫煙: 1日20本以上20年間以上の長期喫煙者に多く、この場合は禁煙が非常に有効
・細菌性扁桃炎、齲齒などの感染
・歯科金属アレルギー
【臨床像】
・手掌、足底に小水疱、膿疱化水疱、無菌性小膿疱、痂皮、落屑など様々な皮疹を生じ、周囲には境界不明瞭な紅斑局面を呈する
・常にこれらの所見があるわけではなく、膿疱が存在しない時期もある
・手掌では母指球、小指球、手掌中央部に好発する
・爪病変は3割程度にみられる
・これらが消長を繰り返しながら慢性的に経過する
【診断】
・診断は
① 皮膚所見
② 慢性の経過
③ 他疾患の除外
で行われる
・膿疱を見たら、必ず細菌感染(グラム染色、培養)と真菌感染(KOH法)を行って感染を除外する
・確定診断には皮膚生検による病理所見が必要だが、ダーモスコピーによる観察で水疱の中央に小膿疱を含む所見(pustulo-vesicle)を確認出来れば、鑑別すべき他の疾患にはない特徴的な所見なので診断に有用

【治療】
★ 経過が長く、増悪寛解を繰り返す疾患であり、治療から脱落させないためには、丁寧な説明と細かな対応が必要になる
① 喫煙があれば、本疾患と喫煙の関連を丁寧に説明して、粘り強く禁煙を薦める② 感染症の検討
・扁桃炎、歯周病、副鼻腔炎、中耳炎、胆嚢炎などが多い
・無症状の感染が関わることが多く、他科に治療を依頼する場合は丁寧な情報提供が必要
・扁桃摘出術を行うこともある
・ただし、適切に治療しても軽快、治癒までは1〜2はかかる
③ 金属アレルギーの検討
・金属パッチテストを行って、必要な対応を行う
④ 薬物療法
外用)
・アンテベート軟膏 1日2回
・オキサロール軟膏 1日2回
紫外線療法)外用療法と組み合わせる
内服)
・アレグラ(60)2錠 2X(保険適用外)
・チガソン(10)4c 2X : 厚い角質の付着や鱗屑を認める例
・クラリス(200)2錠 2X : 急激な膿疱の拡大や胸鎖関節の疼痛などに対して機関を区切って投与
・漢方薬 十味敗毒湯、黄連解毒湯、温清飲など
・免疫抑制剤 シクロスポリン、アプレミラスト、メトトレキサート、TNF阻害薬など 生物学的製剤)
・トレムフィア皮下注(グセルクマブ)1回100mを初回、4週後。以後、8週間間隔:既存治療で効果が乏しく、中等度以上の皮疹があり、QOLが高度に障害されている例
【掌蹠膿疱症性骨関節炎 pustulotic arthro-osteitis(PAO)】
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・胸鎖関節、胸肋関節等胸骨を含む関節の頻度が高い
・体軸関節(脊椎、仙腸関節、股関節)や肩関節、末梢関節に及ぶこともある
・現時点で診断基準が確立されていない
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参考文献)
1. 日本皮膚科学会「掌蹠膿疱症診療の手引き 2022」
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/PPP2022.pdf 2. 清水宏「あたらしい皮膚科学」中山書店 71:456-469,2006
3. 石川治 田村敦志「皮疹からみる皮膚病理」南江堂 2010
4. 山崎雄一郎 他「全ての診療科で役立つ皮膚診療のコツ」羊土社 2011
5. 西山茂夫「皮膚病アトラス」文光堂 2005 6. 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版 村上正基:掌蹠膿庖症」日本医事新報社 2022.