Basedow病

Basedow病

  • 甲状腺刺激作用を有する抗TSH受容体抗体により、甲状腺機能亢進症をきたす臓器特異的自己免疫疾患
  • Basedow病の原因はTSH受容体抗体(TRAb)のうちTSH受容体刺激作用を持つ刺激抗体(TSAb)である。TRAbのうちブロッキング抗体(TSBAb)は甲状腺機能低下症の原因である
  • TSAbは各臓器・組織の代謝を亢進させ甲状腺中毒症の症状を出現させる
  • 男女比は1:3〜7、20〜40歳台に多いが、どの年齢でも見られる
  • 日本での有病率は0.2〜1.0%
  • 一般外来では女性の150人、男性の600人に1人であるという
  • 遺伝的背景があり、HLAが関係する

【症状】

  • ①びまん性甲状腺腫、②甲状腺中毒症状、③眼球突出をMerseburgの三徴という

(甲状腺腫)

  1. 一般的には左右対称のびまん性甲状腺腫

(甲状腺中毒症状)


(眼症状)

  • 甲状腺眼症は25〜50%で認められ、臨床症状を呈するものは20〜30%。症状は眼瞼の後退、眼球突出、外眼筋障害、眼球痛など
  • 亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎では基本的にないので鑑別のポイントになる
  • コレステロール低下、アルカリフォスファターゼ上昇となることが多い

【診断】

甲状腺中毒症を疑ったらまずTSH、FT3、FT4を調べる

  • Bassedow病、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎を鑑別する

(診断基準の補足)

  1. コレステロール低値、アルカリホスファターゼ高値を示すことが多い。
  2. 遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
  3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
  4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
  5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
  6. 遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl) 比が2.5≧である場合はBasedow病の可能性が高い
  7. 甲状腺血流増加・尿中ヨウ素の低下が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である(しかし、尿中ヨウ素を測定してくれる検査会社はない)
  8. TSH刺激性受容体抗体(TSAb)は未治療Basedow病での陽性率97.7%であり多くは抗体価は120%を超える。無痛性甲状腺炎では5〜10%の陽性率であり抗体価は120%前後(*3)
  • TSH受容体抗体(TRAb)は96%で陽性になるが全例ではない。軽症例では陰性のことがある

(TRAb抗体価によるBasedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別 *4)

  • 第Ⅲ世代TSH受容体抗体(TRAb)が≧3.0IU/Lであれば99%の確率でBasedow病と診断できる
  • TRAb≦0.8IU/Lは100%無痛性甲状腺炎
  • TRAb0.8〜3.0IU/LはBasedow病と無痛性甲状腺炎のどちらもありえる

中枢神経症状、38℃以上の発熱、130回/分以上の頻脈、心不全症状、強い消化器症状などを認める場合は甲状腺クリーゼの可能性を考える


甲状腺クリーゼ

【治療】

(内服) ・メチマゾール(MMI)およびチウラジール(PTU)が用いられる

  • 副作用の発現頻度の違いからMMIが第一選択薬となる
  • 妊婦ではPTUを用いる。小児にはPTUを用いない
  • MMIは乳汁に移行するので授乳中の女性ではPTUが用いられることが多いが、MMIの投与量が15mg以下で、服用後8時間以上してから授乳するようにできるなら必ずしもPTUに変更する必要はない
  • MMIの半減期は4〜7時間であるが、甲状腺内に取り込まれ血中のMMIの濃度が低下しても24〜36時間は効果が維持されるので単回投与も可能である。しかしPTUは分服が必要である
  • MMIの初期投与量はFT4値で決める。7ng/dl以上であれば30mg/日より開始し、それ未満であれば15mg/日より開始する
  • ヨウ化カリウム50mg/日をMMIと併用することでFT4正常化までの期間は有意に短縮する(*5)
  • 副作用としては、ともに肝機能障害、発疹、白血球減少症(発症頻度0.2〜0.5%)がある。投与開始後は特に気をつけて経過を診る。
    MMIの添付文書では警告として「少なくとも投与開始後2ヶ月間は、原則として2週間に1回、それ以降も定期的に白血球分画を含めた血液検査を実施すること」と明記されている
  • 無顆粒球症は開始後90日以内に多く、白血球数が2000/μL以下に減少した場合はには抗甲状腺薬を中止し、1000/μL以下に減少した際には直ちに好中球コロニー刺激因子(G-CSF)などの投与を行う
    例)グラン150 1日1回皮下注  回復までは7日程度を要するので、予防的に抗生剤多剤投与する(*6参照)
  • FT4が正常化すれば抗甲状腺薬を漸減していく、その後はTSHの正常化を指標とする
  • 少量(0.5〜1錠/日程度)で甲状腺機能を維持できるようになっても、寛解を得るためにはこの維持量を1年以上継続することが望ましい
  • 寛解を予測する客観的な指標はいまだないが、①抗TSH受容体抗体が陰性か、②甲状腺腫が縮小、③少量の抗甲状腺薬でコントロール可能な期間が1年以上継続、などが認められれば寛解の可能性が高い

他、甲状腺摘出術、I131甲状腺内用療法などがある

参考文献)
  1. 豊田長興 他「甲状腺」日本内科学会雑誌 第92巻 第4号・平成15年4月10日
  2. 髙須信行「Basedow病・橋本病:診断と治療」日本内科学会雑誌 第97巻 第 9 号・平成20年 9 月10日
  3. 上條 桂一「TSAb(EIA)測定の臨床応用」日本甲状腺学会雑誌 2018; 9(2):4-9
  4. Keiichi Kamijo Study on cutoff value setting for differential diagnosis between Graves’ disease and painless thyroiditis using the TRAb (Elecsys TRAb) measurement via the fully automated electrochemiluminescence immunoassay system Endocrine Journal 2010, 57 (10), 895-902
  5. Kazuna Takata et.al. Benefit of short-term iodide supplementation to antithyroid drug treatment of thyrotoxicosis due to Graves' disease Clin Endocrinol 2010 Jun;72(6):845-50.
  6. 厚生労働省 「重篤副作用疾患別対応マニュアル 無顆粒球症」平成19年6月(令和4年2月改訂) 7.