甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼ

未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患があり、何らかの強いストレスが加わり甲状腺ホルモン作用の過剰に対する生体の代償機が破綻、多臓器不全を生じる死亡率の高い病態

  • 日本での致死率は約10%
  • 死因は多臓器不全、心不全、腎不全、呼吸不全、不整脈の順

【誘因】

  • 未治療ないしは抗甲状腺薬の不適切な使用や中断
  • 甲状腺手術、甲状腺アイソトープ治療、過度の甲状腺触診
  • 感染症、臓器手術、外傷、不意右腎皮質機能不全
  • DKA、脳血管障害、肺血栓・塞栓症、虚血性心疾患 誘因)感染、特に胃腸炎

【症状】

中枢神経症候:不穏、せん妄、精神異常、傾眠、痙攣、昏睡JCS1以上またはGCS14以下
38℃以上の発熱
頻脈:130回/分以上
心不全症状:肺取水、肺野の50%以上の湿性ラ音、心原性ショック。NYHAⅣ度あるいはKillipⅢ以上
消化器症状:嘔気、嘔吐、下痢、黄疸(血清総ビリルビン>3mg/dL)


注)
JCSⅠ 1だいたい清明であるがいまひとつはっきりしない 2見当識障害がある(場所や時間、日付けが分からない) 3 自分の名前、生年月日が言えない
NYHAⅣ度: いかなる身体活動を行うにも症状を伴う心疾患患者で安静時にも心不全や狭心症の症状が存在し、身体活動によって症状が増悪する
KillipⅢ度: 肺水腫(肺ラ音聴取域が両肺野の50%以上)


【検査所見】

  • 甲状腺中毒症の存在(FT3あるいはFT4の少なくともいずれか一方が高値)

【診断】

*症状の詳細については【症状】を参照

  • 致死率は確実例と疑い例で変わらない

【治療】

  • 疑われれば、ACTH、コルチゾールの測定用検体を採取後、躊躇なく治療を開始する
  • ストレス下の随時血中コルチゾール値を用いた 副腎クリーゼの判定の目安として3~5 μg/dl 未満なら副腎不全症を強く疑う

  1. 大量の抗甲状腺薬:チアマゾール(メルカゾールR錠)5mg 1回3~5 錠 1日 2~3回服用。漸減していく。経口摂取が困難な場合はメルカゾールR注(10mg/1mL/A)を用いる
  2. ヨウ化カリウム丸(50mg)を6時間毎に服用。経口摂取困難な場合は内用ルゴール液(院内調剤)を用いる
    • 無機ヨウ素薬は甲状腺ホルモンの産出と分泌を最速で抑制
  3. ヒドロコルチゾン(水溶性ハイドロコートン、ソル・コーテフ)初回200mg静注。その後、6〜8時間毎に100mgを静注
    • 相対的副腎不全状態にあるため併用
  4. β遮断薬 ビソプロロール(メインテートR)5mg またはアテノロール(テノーミンR)50mg1回1錠 1日1回服用。経口摂取が困難な場合はプロプラノロール(インデラルR注)やランジオロール(オノアクトR注)を考慮
  5. 全身管理。重症例では人工心肺も考慮
参考文献)
  1. Akamizu T, et al. Diagnostic criteria and clinic-epidemiological features of thyroid storm based on a nationwide study. Thyroid. 2012; 22: 661-79.
  2. 赤水尚史「甲状腺クリーゼ」日内会誌 105:653~657,2016