無痛性甲状腺炎
  • 慢性甲状腺炎が基礎にあって、何らかの誘因により、一過性の自己免疫性細胞障害が起こって発症すると考えられているが詳細は不明である
  • 亜急性甲状腺炎と比べると
    1. 甲状腺の疼痛がない
    2. 発熱を認めない
    3. RP上昇、著明な赤沈亢進などを認めない
  • 組織はリンパ球浸潤を主体とする慢性甲状腺炎の像を呈する
  • 甲状腺中毒症の5〜10%を占める
  • 男女比は1:7〜9で、20〜40歳台に多い
  • 抗不整脈薬のアミオダロンやアンカロンによって生じる場合がある

【症状】

  • 甲状腺部の自発痛や圧痛を認めない
  • 甲状腺腫は左右対称でびまん性だが比較的小さい。硬いものから比較的柔らかいものまである。血管雑音は聴取されないのでされた場合はBasedow病
  • 初期には甲状腺中毒症(倦怠感、動悸、息切れ、発汗過多、手指鍼線、体重減少など)を呈する甲状腺部の自発痛や圧痛を認めない
  • 甲状腺腫は左右対称でびまん性だが比較的小さい。硬いものから比較的柔らかいものまである。血管雑音は聴取されないのでされた場合はBasedow病
  • 初期には甲状腺中毒症(倦怠感、動悸、息切れ、発汗過多、手指鍼線、体重減少など)を呈する

【検査所見】

  • CRP上昇、血沈の亢進

【診断】

  • CRPは正常、血沈は亢進する場合もあるが、50mm/hを超えない
  • FT3高値、FT4高値、TSH低値(多くは0.01μU/ml以下)
  • totalT3/totalT4比は大部分が20以下。Basedow病では半数以上で20以上となる
  • 血中亜鉛濃度は正常範囲がほとんどで、Basedow病では90%以上の例で低値となる
  • 超音波では局所性低エコー領域を示すが、これだけではBasedow病との鑑別は容易ではない。カラードプラーを用いる無血流領域として描出され、Basedow病では発達した血流像が見られるので鑑別点となる
  • Basedow病ではMoebius徴候やvon Graefe徴候などの眼徴候(下図)を約85%で認めるが無痛性甲状腺炎では基本的に認めない
  • 高マイクロゾーム抗体(MCHA)は半数以上で陽性で、陽性例では中毒症期に続いて機能低下症期に陥りやすいのに、陰性例では機能低下症にならないことが多い
  • 抗サイログロブリン後退(TgAb)は70%、抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体(TPOAb)は50%で陽性という報告がある
  • 血中TRAbは無痛性甲状腺炎でも0〜9%で弱力価(<3.0IU/L)で認められるのでBasedow病との鑑別は困難なこともある
  • TSH刺激性受容体抗体(TSAb)は未治療Basedow病での陽性率97.7%であり多くは抗体価は120%を超える。無痛性甲状腺炎では5〜10%の陽性率であり抗体価は120%前後(*4)

【診断】

  • 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解Basedow病の経過中発症する
  • 出産後数ヶ月でしばしば発症することがある
  • 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い
  • 回復期に甲状腺機能低下症となる例も多く、少数例では永続的に低下する
  • 急性期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気づかれることがある (鑑別診断)橋本病急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌

(TRAb抗体価によるBasedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別 *5)

  • 第Ⅲ世代TSH受容体抗体(TRAb)が≧3.0IU/Lであれば99%の確率でBasedow病と診断できる ・TRAb≦0.8IU/Lは100%無痛性甲状腺炎 ・TRAb0.8〜3.0IU/LはBasedow病と無痛性甲状腺炎のどちらもありえる
  • 第Ⅲ世代TSH受容体抗体(TRAb)が≧3.0IU/Lであれば99%の確率でBasedow病と診断できる
  • TRAb≦0.8IU/Lは100%無痛性甲状腺炎
  • TRAb0.8〜3.0IU/LはBasedow病と無痛性甲状腺炎のどちらもありえる

【治療】

  • 甲状腺中毒症期にはβ遮断薬を用いる
  • 抗甲状腺剤は甲状腺機能低下症の発生を促すことになるので用いない
  • 副腎皮質ステロイドは一般に用いられないが、中毒症状の激しい例、発作精神防災道などの合併症のある例などには用いても良い
  • 機能低下期に重症例では甲状腺ホルモン剤(l-T4 50mgが目安)を用いても良い
参考文献)
  1. 吉田 克己他「亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎の診療」日内会誌86:1156~1161,1997
  2. 日本甲状腺学会「亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン」 https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
  3. 森昌朋「甲状腺機能異常の診断と治療」日本内科学会雑誌 第101巻 第 9 号・平成24年 9 月10日
  4. 上條 桂一「TSAb(EIA)測定の臨床応用」日本甲状腺学会雑誌 2018; 9(2):4-9
  5. Keiichi Kamijo Study on cutoff value setting for differential diagnosis between Graves’ disease and painless thyroiditis using the TRAb (Elecsys TRAb) measurement via the fully automated electrochemiluminescence immunoassay system Endocrine Journal 2010, 57 (10), 895-902