尿崩症
  • 抗利尿ホルモン(AVP)が適切に分泌されないために、腎臓における尿の濃縮が減弱して多尿に至る疾患
  • 多尿は水そのものが多い場合(水利尿)と溶質が多い場合(浸透圧利尿)に大きく分けられ、前者の代表的疾患が尿崩症で後者の代表的疾患が糖尿病
  • 中枢性尿崩症の患者数は4000〜5000人程度

【症状】

  • 比較的急速に出現する口渇、多尿、多飲
  • 尿量は3〜10L/日に及ぶ
  • 口腔内に灼熱感を伴い、冷たい水を好む
  • 脳下垂体腫瘍などではしばしば下垂体機能低下症を伴う

【初期評価】

  • 尿崩症の診断は、比較的急性に発症する多尿・口渇・多飲を手掛かりとして、尿比重や尿浸透圧の低下を確認することからはじまる
  • 尿比重1.007以下なら水利尿、1.025以上なら浸透圧利尿と判断する
  • 尿浸透圧が290mOsm/kg以下なら水利尿が、それ以上なら浸透圧利尿と判断する

尿浸透圧には次の推定法もある
尿浸透圧(mOsm/kg)=
2×[尿中ナトリウム濃度(mEq/L)+尿中カリウム濃度(mEq/L)]+BUN(mg/dL)/2.8

【診断】

  • 診断は次のガイドラインに沿って行うが専門医療機関でなければ困難である

中枢性尿崩症)

  • 中枢性尿崩症の60%以上が続発性であり、視床下部-下垂体系のMRIで器質的疾患を評価する
  • 原因のうち多いのは胚細胞腫(23%)、頭蓋咽頭腫(19%)、手術後(13%)、特発性(13%)
  • ラトケ嚢胞が原因となる例もある(4%)
  • 脳の手術でなくても術後帰室直後から発症する場合がある

腎性尿崩症)

  • 腎性尿崩症の原因として最多のものはリチウム。内服開始初期には約60%で多飲、多尿を認める
  • 低K血症や高Ca血症が一過性腎性尿崩症の原因となりうることを知っておくべき

【治療】

  • デスモプレシン(DDAVP)を用いる。点鼻製剤と口腔内崩壊錠がある
  • 慎重に容量調節を行う必要があり導入は専門医に任せる

【予後】

  • 続発性尿崩症のうち、脳腫瘍が原因となる場合は、その病勢によっては不良となる
参考文献)
  1. 一般社団法人 日本内分泌学会「間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン 2023年版」
  2. 横手幸太郎 他「内分泌疾患診療ハンドブック」中外医学社 2016
  3. 岡畠祥憲 他「術後に発症した中枢性尿崩症の2例」日集中医誌 2019;26:33-4
  4. 有馬寛 「中枢性尿崩症の診断のupdate」公益財団法人山口内分泌疾患研究振興財団 内分泌に関する最新情報 2020年 4月