甲状腺中毒症の評価

甲状腺中毒症

臨床所見1

    甲状腺中毒所見(頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等) びまん性甲状腺腫大 眼球突出または特有の眼症状 有痛性甲状腺腫

臨床所見2

    甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症 甲状腺中毒症の自然改善(通常約3ヶ月以内)

検査所見

    抗TSH受容体抗体(TRAb)、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性 抗TSH受容体抗体(TRAb)陰性 CRPまたは、血沈高値

画像所見

    放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺接種率高値、シンチグラフィーでびまん性 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺接種率低値 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺接種率不明 甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域

判定  

    ◎ 非典型例では診断がつかない場合もあります

付記

    バセドウ病
    1. コレステロール低値、アルカリホスファターゼ高値を示すことが多い。
    2. 遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある。
    3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves' diseaseまたはeuthyroid ophthalmopathyといわれる。
    4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
    5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める。
    6. T3(pg/ml)/T4(ng/dl) 比のは無痛性甲状腺炎の除外に参考となる(total T3/total T4で20以上 遊離T3/遊離T4では2.5以上でBasedow病の可能性が高くなる)。あくまでも参考所見である
    7. 甲状腺血流増加・尿中ヨウ素の低下が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である

    無痛性甲状腺炎
    ・甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。

    1. 慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中発症するものである。
    2. 出産後数ヶ月でしばしば発症する。
    3. 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
    4. 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
    5. 急性期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
    6. 抗TSH受容体抗体陽性例が稀にある。

    亜急性甲状腺炎
    除外規定 橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌

    1. 回復期に甲状腺機能低下症になる例も多く、少数例は永続的低下になる。
    2. 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀でない。
    3. 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する。
    4. 抗甲状腺自己抗体は高感度法で測定すると未治療時から陽性になることもある。
    5. 細胞診で多核巨細胞を認めるが、腫瘍細胞や橋本病に特異的な所見を認めない。
    6. 急性期は放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。

    (TRAb抗体価によるBasedow病と無痛性甲状腺炎の鑑別 *3)
    ・第Ⅲ世代TSH受容体抗体(TRAb)が≧3.0IU/Lであれば99%の確率でBasedow病と診断できる
    ・TRAb≦0.8IU/Lは100%無痛性甲状腺炎
    ・TRAb0.8〜3.0IU/LはBasedow病と無痛性甲状腺炎のどちらもありえる
    参考文献)
    1.吉田 克己他「亜急性甲状腺炎と無痛性甲状腺炎の診療」日内会誌86:1156~1161,1997
    2.日本甲状腺学会「亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン」 https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/japanese.html
    3.Keiichi Kamijo Study on cutoff value setting for differential diagnosis between Graves’ disease and painless thyroiditis using the TRAb (Elecsys TRAb) measurement via the fully automated electrochemiluminescence immunoassay system Endocrine Journal 2010, 57 (10), 895-902