虚血性腸炎

【定義と疫学】

  • 大腸の主幹動脈の閉塞を伴わない血流障害のために起こる可逆性の血行障害が原因で発症する大腸炎
  • 海外では、下部消化管出血が原因の入院患者の16%を占めたと報告されている
  • 女性、高齢者に多い。8割以上が高齢者
  • 夕食後、就寝中に発症しやすいという報告が在る(*3)
  • リスクは、便秘、脱水、腹部手術歴、動脈硬化、糖尿病など
  • 右側型は死亡率が高い


【症状】

  • 典型的には突発する左側腹部〜下腹部痛、とそれに引き続く下痢、血便
  • 腹痛は強く、冷汗を伴うことが多い
  • 便秘があって、強くいきんだ後の発症が多い
  • 発熱は軽微なことが多い

【理学所見】

  • 左側腹部~左下腹部~下腹部の圧痛
  • 腹膜刺激症状があれば腸管壊死や穿孔を疑う
  • 診断後1年で寛解を維持できるのが50〜60%前後、15〜25%で軽度の炎症m10〜30%で悪化する

【検査所見】

  • WBC高値,CRP軽度増加程度が多い
  • LDH,CK高値等は腸管壊死を疑う

【診断】

  • 腹部造影CTで左側大腸に区域性の炎症所見(腸管浮腫、ときにfat stranding)。陽性所見検出率は98%という報告があある
  • 確定診断には下部消化管内視鏡検査が必要。1〜2日後になっても改善しない例やCTで診断が不確実な場合に考慮する。大腸粘膜の再生は速やかで発症48時間後では所見が消失することもある 内視鏡所見は縦走傾向のあるびらんや浅い潰瘍

(鑑別診断)

  • 細菌性腸炎、抗菌薬起因性腸炎の除外を行う

【治療】

  • 自然治癒傾向が強いため、まず禁食、補液とし、血便も腹痛も止まり、炎症反応が改善すれば流動食から開始。数日で食上げする
  • 来院時、既に血便が止り腹痛や炎症反応が軽微であれば、食事制限のうえ、外来治療も可能
  • 抗菌薬使用を推奨するガイドラインもあるがエビデンスは乏しい
  • 腹膜刺激症状があって腹膜炎が疑われたり、あるいは頻回の輸血が必要なほど大量の出血が続く場合は外科的治療の劇央
参考文献)
  1. 穂苅量太「高齢者の虚血性大腸炎の特徴と治療」日老医誌 2020;57:431―435
  2. 丸山茂雄 他「虚血性大腸炎の臨床的検討」日消誌 2018;115:643―654
  3. 松嶋成志「虚血性大腸炎[私の治療]」 日本医事新報WEBコンテンツ 2020ー10-09登録