憩室炎

疫学と分類

  • 大腸憩室の数%〜10%に憩室炎が合併する
  • 60歳未満は右側結腸憩室炎(70%)、高齢では左側結腸炎が多く(60%)、左側結腸炎では重症化しやすい
  • 穿孔や膿瘍などは左側結腸に多い(57.5%:26.4%)
  • 喫煙、肥満が危険因子である可能性が示唆されている

【症状】

  • 発熱、腹痛、嘔気、嘔吐
  • 限局性圧痛と筋性防御
  • 右側型では虫垂炎との鑑別が重要
  • 汎発性腹膜炎を起こすことがある
  • 4〜20%に瘻孔を合併する。主な臓器は膀胱であるが、子宮、膣、腎臓、皮膚等とも形成されうる
  • 狭窄を合併することがあり、この場合は自然治癒は稀れ

【検査所見】

血液検査)

  • 白血球増多、CRP上昇、赤沈亢進など

造影CT)

  • 感度、特異度ともに高い。ほとんどがCTで診断される
  • 憩室壁が7〜10mmで85%、10mm以上では100%憩室炎があるとされる
  • 周囲にfat stranding(脂肪組織のdensityが上がって白っぽくなり筋肉に近づく)
  • 膿瘍を形成すると液体貯留(fluid collection)

下部消化管内視鏡)

  • 急性期には穿孔のリスクがあるため、原則的には行わない
  • 憩室炎が寛解すれば、大腸癌との鑑別のために推奨される

【治療】

軽症)

  • 膿瘍、瘻孔、穿孔などの合併症が無い場合
  • 内服抗生剤と流動食で外来治療が可能
  • 抗生剤は必要ないことを示す研究もあるが、現時点の日本では一般的に投与されている

中等症)

  • 入院の上、禁食、補液、抗生剤の点滴投与
  • 85%は寛解する
  • 膿瘍があっても30mm以下であれば抗菌薬投与と腸管安静を行う

重症)

  • 50mmを越える膿瘍があればCTガイド下に経皮的ドレナージを行う
  • ドレナージ例の41%ではのちに重症の敗血症を起こすので、待機的手術が推奨される
  • 汎発性腹膜炎は緊急手術となる。重症度によって死亡率は6〜35%
  • 保存的治療に反応しない場合も手術を検討

再発)

  • 膿瘍や穿孔を伴わない場合は13%
  • 膿瘍や穿孔を伴う例に保存治療を行った場合は72%

再発予防)

  • 適切な排便コントロールと食物繊維摂取を増やす食事指導がなされている
  • メサラジンやプロバイオティクスの効果が検討されている
  • いずれも現時点では明確なエビデンスはない
参考文献)
  1. 貝瀬満 他「大腸憩室疾患の現況 ―予防から治療まで―」日内会誌 107:571~578,2018
  2. 飯室正樹 他「大腸憩室炎の診断と内科的治療」日本大腸肛門病会誌 61:1021―1025,2008