炎症性腸疾患

【定義と疫学】

  • 原因不明の慢性に経過する消化管の炎症性疾患で、通常は回陽性大腸炎とCrohn病を示す
  • 腸管外合併症として末梢関節炎、強直性脊椎炎、口腔アフタ、結節性紅斑、壊疽性膿皮症などの皮膚症状、虹彩炎などがある
  • 2012年時点では患者数は潰瘍性大腸炎が約14.3万人、クローン病が3.6万人強だったが、近年、増加の一途を辿っている
  • 欧米では約50年前より、本邦ではそれを追うように20~25年前より炎症性腸疾患患者の増加が認める
  • 家族集積性があり、疾患感受性に関する遺伝子の報告がある。単一の遺伝子異常では無いが、なんらかの遺伝的素因が想定されている
  • 発症の危険因子として、喫煙はCrohn病では正の、潰瘍性大腸炎では負の相関がある
  • 潰瘍性大腸炎では朝食のパン食、バター、マーガリン、肉類の摂取がリスクを増加させるという報告があるがエビデンスとしては不十分

【潰瘍性大腸炎】

  • 大腸に限局した病変をきたす疾患であり、主として粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する原因不明のびまん性非特異性炎症。病変は直腸から連続的に口側に広がり、歳代で結腸全体にまで及ぶ
  • 軽症が約2/3、中等症が27%。重症例は5%前後

(症状)

  • 下痢と腹痛。しばしば下血を伴う。重症化すれば粘血便となる
  • 10年間の手術率は24%前後という報告がある
  • 長期経過例では大腸癌の合併が問題となる。累積発症率は20年で7%、30年で17%と報告されている
  • 生命予後は健常人と異ならない

【Crohn病】

  • 原因不明の消化管の全ての領域に起こる潰瘍や線維化を伴う全層性の肉芽腫性炎症性病変で、主として若年者にみられる
  • 寛解と軽症で約2/3。重症例は5%前後
  • 診断後1年で寛解を維持できるのが50〜60%前後、15〜25%で軽度の炎症m10〜30%で悪化する

(症状)

  • 下痢と腹痛。しばしば下血を伴う
  • 増悪すると腸閉塞、腸穿孔、大出血などを生じる
  • 発症5年後で33.3%、10年で70.8%が手術が必要になり、手術後の再手術率も5年で28%と効率
  • 長期経過例では腸管悪性腫瘍が問題になる
  • 診断10年後の累積生存率は96.9%と生命予後は良好と考えられている

【鑑別診断】

  • 急性期には急性感染性腸炎、虚血性大腸炎、慢性期には腸管Behçet病、単純性潰瘍、慢性感染性腸炎(腸結核、アメーバ性大腸炎など)、薬剤性腸炎など
  • 潰瘍性大腸炎との鑑別が問題になるのは、カンピロバクター腸炎と好酸球性大腸炎
  • 感染性腸炎は治癒が可能なので確実に鑑別を行う

【疾患活動性の評価】

  • 抗TNFα抗体製剤の出現により、治療目標は臨床上昇の改善から、長期的経過の改善へと変化した
  • 臨床症状と内視鏡的所見が乖離するので臨床的寛解であっても必ずしも内視鏡的寛解に至らない場合があり、注意が必要である
  • どのような指標を、治療目標の短期目標である"target"にすべきかについてはまだ模索が続いているが、一般的には「内視鏡的寛解」という概念が主流。特に、潰瘍性大腸炎は内視鏡による全大腸観察が可能なので広く受け入れられている。それにたいして、Crohn病では小腸の観察が容易ではないためすべての病変を内視鏡的に評価するのは難しい
  • 小腸の観察にはバルーン内視鏡やカプセル内視鏡が導入されているが、行える医療機関は限られている
  • 便中カルプロテクチンや便潜血定量検査がサロゲートマーカーとして期待されている

【治療】

(内科的治療)

  1. 5-aminosalicyclic acid(5-ASA)製剤:軽症〜中等症の潰瘍性大腸炎治療の第1選択。現在、サラゾピリン、ペンタサ、リアルダの3種が使用可能 2.ステロイド:炎症性腸疾患の中等症〜重症の炎症制御に最適。2016年からブデゾニドが使用可能となった。他のステロイドと比べて、寛解率、奏功率には差が無く、副作用の発現率は有意に低い
  2. チオプリン製剤:難治性および慢性活動性炎症性腸疾患患者、特にステロイド依存例に対して第1選択となる。開始前にAZAの代謝に重要な役割を果たす酵素であるNUDT15の遺伝子多型をチェックするべきである
  3. 血球成分除去:meta-analysisiにて寛解誘導に関する有効性と安全性が示されている。一方、維持療法についてのエビデンスには乏しい
  4. カルシニューリン阻害薬:シクロスポリンとタクロリムスがある。重症の潰瘍性大腸炎に対して使用を検討する
  5. 生物学的製剤:インフリキシマブ,アダリムマブ, ゴリムマブ,ウステキヌマブ,ベドリズマブが使用可能。多くの重症例に奏功するが、1次無効および2次無効例も少なくはなく、これらの新規治療法の最適なpositioning及び各薬物の長期安全性については明らかにされていない

(小腸バルーン内視鏡)

  • これにより全小腸の内視鏡観察および組織生検が可能となりクローン病診療でも小腸の内視鏡的活動性を評価できるようになった
  • 内視鏡的狭窄部バルーン拡張術が行われており、大きく期待されている
  • 初回内視鏡的バルーン拡張術後の累積手術回避率は2年間で79%、3年間で73%で、成功例では有意差をもって手術回避率が高かったという報告がある(*6)
参考文献)
  1. 小林拓「炎症性腸疾患の概念・定義と疫学」炎症性腸疾患の概念・定義と疫学
  2. 仲瀬裕志「炎症性腸疾患の治療の最前線」日内会誌 109:1145~1152,2020
  3. 小林拓 日比紀文「炎症性腸疾患の概念・定義と疫学」日内会誌 98:5~11,2009
  4. 久松理一「炎症性腸疾患-診断と治療の最前線-」Gastroenterological Endoscopy Vol. 61(8), Aug. 2019
  5. 清水誠治 他「炎症性腸疾患の鑑別診断」Gastroenterological Endoscopy Vol. 56(1), Jan. 2014
  6. Hirai F, Beppu T, Takatsu N et al. Long-term outcome of endoscopic balloon dilation for small bowel strictures in patients with Crohn’s disease. Dig En- dosc 2014;26:545-51.
  7. 「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」 難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/218
  8. 「クローン病(指定難病96)」 難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/219