- 機能性消化管障害(Functional gastrointestinal disorders:FGID)は、小腸・ 大腸領域由来と考えられる症状を呈するが、器質的疾患を認めない疾患である。その代表的疾患が過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)と位置づけられる
- IBSは便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類される
- FGIDのうち腹痛がない下痢を機能性下痢、同じく便秘を機能性便秘とする。この2つをあわせて機能性胃腸障害である
- 日本で有病率は人口の14.2%と非常に多い。1年間の罹患率は1〜2%で、内科外来患者を母集団とすると31%におよぶ
- 主要病態のひとつとして内臓知覚過敏があり、下部消化管内視鏡の操作や少量の送気で痛みを訴えることがある
疾患
過敏性腸症候群
【症状】
- 腹痛・下痢・便秘
- 腹痛が排便で改善する
- 睡眠中には腹痛がない
- 不安、抑うつ、高ストレス状態など心理社会的な問題を持つことが多い
【診断】
- ROME Ⅳ(*2)の診断基準による
以下の日本消化器学会の診断アルゴリズムは、
「50歳未満では強い必要がなければ下部消化管内視鏡などの精査を行わない」
という方針で組み立てられている。
50歳未満で下部消化管精査を希望しない場合はSTEP1から評価するが、50歳以上、あるいは精査希望する場合はSTEP2から開始する
【STEP1 リスク評価】
(警告症状)
(危険因子)
(スクリーニング検査での異常)
下部消化管精査の必要性
【STEP2 下部消化管の検査】
方針
【STEP3 ROME Ⅳ】
(画像検査)
診断
【治療】
- まず、医師患者関係を良好に保つように心掛ける。症状のつらさに共感しつつ、丁寧に病気について説明し、重大な疾患が見逃されているわけでは無いことを説明する
- これ以外に、下痢に対してロペラミド、腹痛に対してブチルスコポラミンが用いられる
- 漢方薬としては腹痛に対して桂枝加芍薬湯、下痢型には人参湯、便秘型には大建中湯がよく用いられる
(薬物療法)
(非薬物療法)
- 薬物療法が奏功せず、精神的ストレスの関与が強く疑われる場合には、抗うつ薬や抗不安薬が検討される
- エビデンスレベルの高いのは三環系抗うつ剤とSNRI。投与を4〜8週間試みる
- これも無効な場合は自律訓練法や認知行動療法による介入が試みられる
- 参考文献)
- 日本消化器学会ガイドライン「機能性消化器疾患診療ガイドライン2020ー過敏性腸症候群(IBS)ー(改定弾2版)」
https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/ibs.html- Drossman DA, Hasler WL:Rome IV‒Functional GI Disorders:Disorders of Gut‒Brain Interaction. Gastroenterology 150:1257‒1261, 2016
- 正岡建洋 金井隆典「過敏性腸症候群の診療―現状と今後の展望―」日消誌 2019;116:570―575
- 福土審「過敏性腸症候群 Irritable Bowel Syndrome」消心身医 Vol.20 No.1 2013
- 福土審「過敏性腸症候群診療ガイドラインの心身医学的インパクト」Jpn J Psychosom Med 56:969-976, 2016
- 奥村利勝「過敏性腸症候群[私の治療]」 日本医事新報WEBコンテンツ 2021ー01-26登録