肝性脳症

  • 肝不全もしくは門脈全身シャント障害による脳機能障害
  • 原因によって次の3タイプに分類される
    Type A:急性肝不全に起因するもの
    Type B:主に門脈―大循環シャント・バイパスに起因するもの
    Type C:肝硬変に起因するもの

【診断】

  • 肝硬変などの基礎疾患がある患者で丁寧な問診と診察により精神症状、神経症状を評価して行うのが原則
  • 血症アンモニア(NH3)値は診断の一助となるが、アンモニアが上昇する病態は他にもあり、さらに低値であっても診断を除外できない
  • 血症アンモニア(NH3)値は治療経過のモニターとして用いることもできないとされている
  • したがって、「意識障害」として幅広い鑑別診断が必要になる

【治療】

  1. 増悪因子のコントロール
  2. 非吸収性合成二糖類
    • 肝性脳症治療の第一選択薬
    • 最近のメタアナリシスでは非吸収性合成二糖類による治療は肝性脳症(ミニマル脳症や顕性脳症)の患者に対して脳症の改善、肝疾患関連の死亡率、全死亡率を改善している,と結論づけている
    • 同様に非吸収性合成二糖類の予防投与には、初発後もしくは再発後の肝性脳症のその後の再発抑制があることも明らかにしている
    • 最終的な生存率を改善するかという点を明確にした信頼度の高いエビデンスはない

    ラクツロース 30〜60ml 分2〜3

  3. 腸管非吸収性抗菌薬
    • 作用機序としては腸管でのアンモニア産生における腸内細菌でのアンモニア産生菌の抑制が考えられている
    • リファキシミンは肝性脳症の臨床症状や神経心理テストなどのパラメーターを改善する
    • リファキシミンは再発性肝性脳症からの回復期患者に対する6ヵ月間投与で肝性脳症再発のリスクをプラセボと比較して0.42(CI 0.28~0.64)に下げた
      非吸収性合成二糖類を投与して48時間以内に改善見られなければ追加する
    • リファキシミン(リフキシマ) 1200mg 分3各食後 *日本で唯一保険適応がある薬剤
    • カナマイシン 2〜4g 分4:微量ながら腸管吸収されるので長期投与には聴覚障害などの副作用がありうる
  4. 分岐鎖アミノ酸製剤(BCAA)
    • 1)血中及び脳内のアミノ酸インバランスが是正される,2)脳内神経伝達物障害の改善、等の機序で脳症を改善させると考えられている
    • 2017年に報告されたメタアナリシスはではBCAAは肝性脳症を有意に改善することが報告されている(リスク比 0.73,95%CI 0.61~0.88)。ただし、死亡率やQOLについては有意差無し
  5. 亜鉛製剤
    • 亜鉛が欠乏すると尿素回路機能低下が起こり、肝臓でのアンモニア処理が滞り血中アンモニアが上昇するので肝性脳症発症の誘因になりうる
    • 補充の適応基準がなく長期的な安全性は明らかでない
参考文献)
  1. 日本消化器病学会・日本肝臓学会 肝硬変診療ガイドライン 2020(改訂第3版)
  2. 星川恭子他 「肝性浮腫,肝性脳症に対する診断と治療」日内会誌 111:58~65,2022