認知障害

認知障害

    ・認知障害は基本的に除外診断であり、診断のためには適切かつ周到な評価が必要になる。間違っても「物忘れの薬」と言われて抗認知症薬を出すような対応はしてはならない

    STEP1 まず、本人と家族への問診で認知症を疑うべき徴候を確認したのちに、MMSE、HDS-Rなどの検査を行う
    STEP2 脳神経変成による認知障害以外の様々な疾患を除外する
    STEP3 認知障害として評価、暫定診断を行う

【STEP1】認知障害と言えるかどうかを判断する

    ① 記憶障害だけでは認知障害とは診断できない。実行機能の低下、失行、失認、失語のいずれかが合併したときに初めて認知障害を疑う

    ② 臨床上問題となる認知障害とは日常生活に支障が生じている場合である。仕事など、社会生活上の支障があっても日常生活の支障がなければ境界領域とされる

    ③ MMSEは23/24点、HDS-Rは21/20がカットオフ値
    ④ 軽度認知障害は性状と認知症の境界領域。MMSEでは診断できず、MoCA-J(Montreal Cognitive AssessmentJapanese version)などの評価が必要だが一般的には用いにくい。また、診断したところで抗認知症薬の効果は認められないため診断の意義は乏しい

    *軽度認知障害では、約20%が数年以内に正常範囲に復帰する

【STEP2】治療可能な原因の除外

    ① アルコール性健忘症候群 飲酒している場合は断酒してもらう必要がある。6〜7週間で回復する場合がある

      ② せん妄 65歳以上では入院時のせん妄は珍しくない

        数時間〜数日で発症する 数ヶ月〜数年かけて発症する
        症状の日内変動が大きい 症状の日による、あるいは日内変動はまれ
        覚醒度は低下する 初期は覚醒度は保たれる
        幻覚がある 幻覚がない


      認知障害

      譫妄  

      ② うつ病
        物忘れをはっきりと自覚している 物忘れの自覚がない
        物忘れを積極的に訴える 物忘れを否定し取り繕う
        心気妄想*がある 物盗られ妄想
        見当識は保たれている 見当識が障害されている
      心気妄想: 身体の健康状態に不安が強く、重大な病気や不治の病にかかってしまったと思い込む妄想


      認知障害

      うつ病  

      ③ 薬剤起因性老年症候群
        ・以下の薬剤は認知障害や譫妄などを誘発する可能性があり、認知障害が疑われれば可能であれば中止すべきである
      ④ 内科的疾患の除外
        ・以下の血液検査を行ってスクリーニングする

      甲状腺機能低下症  

      ウエルニッケ脳症(ビタミンB1欠乏)  

      ビタミンB12・葉酸欠乏  

      Wilson病  

      ④ 脳外科的疾患の除外
        CTあるいはMRIを用いて以下の疾患を鑑別する

        ・正常圧水頭症
        ・慢性硬膜下血腫
        ・脳腫瘍
        ・中枢神経系リンパ腫
      ⑤ 感染症の除外
        以下の疾患を鑑別する(頻度はかなり少ないのでルーチンにやる必要はない)

        ・HIV脳症
        ・神経梅毒
        ・クリプトコッカス性髄膜炎
        ・トキソプラズマ髄膜炎
      ⑥ 軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)
      日常生活に支障がなければ軽度認知障害

      ★ 以上が除外できれば認知障害としての評価を行う。

        参考文献)
        1.德田安春「ジェネラリスト診療が上手になる本」カイ書林
        2.小田陽彦 「科学的認知症診療5Lesson」シーニュ 2018
        3.日本認知症学会編「認知症テキストブック」中外医学社,2008