失神

失神

    脳血流低下によって生じる一過性意識消失発作。突然発症し、数秒〜2分程度で意識が完全に回復する。姿勢制御ができなくなるので怪我をすることが多い

    【STEP1 本当に「失神」か】

    ・そもそも「失神」や「意識消失」を訴えてくることはほとんどなく、多くは「気が遠くなった」「フラフラした」「気づいたら転んでいた」などである。その中から主に問診により本当の「失神」を探り出す必要がある

    ・意識消失前後の状況は患者本人、特に高齢者では詳細に聴取することは困難であり、限定的な意義に留まる
    ・従って、目撃者からの情報が重要であるが、いない場合は実質的に診断は確定できない
    ・失神患者の2割以上が転倒する。したがって、「転倒」を主訴に来院した場合でも「失神」を念頭において評価しなくてはならない
    ・尿・便失禁の頻度も高い
     ★ 以下で当てはまるものをすべてチェック

    突然の意識消失 姿勢反射が失われる(転倒した、など) 数秒から2分以内で意識が完全に回復する

判定

    ・失神と間違えられる病態で多いのは、てんかん発作と低血糖,低酸素,精神疾患

【STEP2 危険な失神の除外】

    ・失神と診断したら次の評価を行う


    ・原因となる疾患群の中で緊急性が極めて高く、短期間の死亡リスクがあるのは心原性失神(10%程度)とくも膜下出血であり、はじめに鑑別する必要がある
       ★ 以下で当てはまるものをチェック

      (臨床所見)

      前駆症状なし。あるいは10秒以下 動悸、胸痛、胸部不快感、背部痛 呼吸困難
      労作中あるいは座位での失神 若年突然死の家族歴
      1ヶ月以内の手術歴 頭痛 高齢 脈拍数100回/分以上
    ・神経調節性失神では通常は数十秒〜数分におよぶ前駆症状がある。症状は、全身が熱くなる感じ、冷や汗、悪心、倦怠感、血の気がひく感じなどだが、高齢者だと自覚しない場合も多い

    (心電図所見)

    心電図でⅡ度以上の房室ブロック 心電図で洞不全症候群 心電図で40/分以下の徐脈あるいは120/分以上の頻脈
    心電図で胸部誘導においてCoved型ST上昇 ST変化、Q波などの心筋虚血所見



    (心エコー所見)

    13mm以上の心筋肥厚 左室収縮のasynergy

      肺血栓塞栓症

      肥大型心筋症

      くも膜下出血

      致死性不整脈

        頻脈性不整脈の初期治療

      消化管出血や重度の脱水

        脱水の評価

      【STEP3 失神のタイプを推測する】

        ・失神は、心原性、神経調節性、起立低血圧、中枢神経原性の4つにわけて考える
        ・失神が起こったときの状況、随伴症状を参考にタイプを推測する


        ★ 以下で当てはまるものをチェック

        (誘発因子)

        労作時 起立直後 長時間の立位 痛み、精神的興奮 排尿、排便、咳嗽、嚥下 上肢の運動、過換気

        (随伴症状)

        冷汗、嘔気、腹部不快感、生あくび 頭痛、神経症状

      判定

        心原性失神

          ・週に1回以上の頻度で失神あるいは失神前駆症状があればホルター心電図を行う
          ・失神を4週間以内に繰り返している場合には、体外式イベントレコーダーも有用
          ・植込み型ループレコーダーの使用は、発生頻度が少ないかあるいは不定期に繰り返す場合に考慮する
        ・特にくも膜下出血は危険であり、失神では必ず脳CTを撮影する
        参考文献)
        1.清田雅智監修 髙岸勝繁著「ホスピタリストのための内科診療フローチャート(第2版)」有限会社シーニュ 2020
        2.德田安春「ジェネラリスト診療が上手になる本」カイ書林 2011
        3.中西重清 他「プライマリケア外来診断目利き術」南山堂 2020
        4.鈴木昌「失神[私の治療]」日本医事新報Webコンテンツ 2021-04028登録