肺アスペルギルス症


【Ⅰ. 慢性肺アスペルギルス症】

本邦における慢性肺アスペルギルス症患者の5年生存率は50%前後と報告されている

【単純性肺アスペルギローマ】

  • 免疫が正常の人に発症する
  • 非侵襲性肺アスペルギルス症の最も代表的な病型
  • 結核などによる既存の空洞や拡張した気管支、ブラなどの中にアスペルギルスが侵入してfungus ballを形成(アスペルギローマ)
  • 人は空中に飛散した約2~4μmのアスペルギルスの分生子を1日に少なくとも数百個吸入しているといわれている
  • この分生子が結核や肺嚢胞症、肺線維症、胸部術後などによって生じた肺内の異常な空隙や、拡張した気管支に到達、増殖し菌球を形成する。特に肺結核の遺残空洞に発症しやすい
  • 無症状が多い
  • 血痰や喀血を起こすことがある。喀血は肺アスペルギローマ患者の死因の最大20%を占める

画像所見)

  • 胸膜肥厚、空洞壁肥厚、胸膜肥厚
  • 空洞や嚢胞の中に円形の腫瘤状陰影(fungus ball)
  • 腫瘤影と空洞の問に見られる三日月状の空間は"meniscus sign"もしくは"air crescent sign"と呼ばれ本症に特徴的だが初期には認めない

治療)

  • 根治のためには肺切除。呼吸機能が保たれ、全身状態が良好な場合はよい適応である
  • 二選択として注射あるいは内服の抗真菌剤

【慢性進行性肺アスペルギルス症】

  • 免疫力が中等度低下した患者に発症する
  • 結核、COPD、その他の慢性肺疾患、恒例、ステロイド内服中などがリスクになる
  • 「空洞性」と「壊死性」に区分されるが、画像所見で区別しにくく、治療方針に違いはなく区別する必要性は乏しい
  • 慢性に経過し、数週間〜数年かけて進行する
  • 喀痰、咳嗽、体重減少、発熱、喀血など

画像所見)

  • 空洞を伴う上葉のconsolidationが特徴であり、これのみでは結核との区別は困難
  • 胸膜肥厚、空洞壁肥厚、胸膜肥厚
  • 菌球はない

診断)

★ 軽度〜中等度に免疫力が低下した患者で抗菌薬に反応しにくい、上気道症状や喀血があれば疑う

  1. 培養 真菌培養の頻度は低い
  2. 血清学的診断
    ガラクトマンナン抗原: 感度、特異度とも低く有用ではない
    β-Dグルカン: 真菌感染症に対する特異度は高いが、他の真菌でも陽性になる
    より有用性の高い検査もあるが保険収載されていない
  3. 可能であれば気管支鏡を用いて病理学的検査および培養を行う

治療)

  • 手術が困難な場合は抗真菌薬
  • 実際には慢性進行性肺アスペルギルス症の多くが対象となる

* consolidationは肺胞内の空気が消失して、内部の血管が全く認識できないような陰影を示す。用語としては浸潤影に近いが、器質化や線維化も含むため厳密には一致しない

【Ⅱ. 侵襲性肺アスペルギルス症】

  • 血液悪性腫瘍や化学療法による好中球減少など免疫力が高度に低下した患者に発症する
  • 急性白血病、造血幹細胞または臓器移植後、大量ステロイド投与、好中球減少症などがハイリスク
  • 発熱、咳嗽、呼吸苦、胸痛など症状は非特異的
  • 喀痰からの検出率は低く確定診断が困難
  • 急激に進行し、早期治療を行っても死亡率は41%あり、治療が遅れれば90%となる
  • 血管侵襲性では出血性梗塞、気道侵襲性では気管支壁の破壊が特徴

診断)

★ 高度に免疫力が低下した患者で抗菌薬不応性の発熱や画像所見を用いて検討する

  1. 画像
    血管侵襲性の早期にはCT halo sgnが見られることがあり、haloは出血を反映するが、特異的な所見ではない
  2. 血清学的診断
    ガラクトマンナン抗原: 感度、特異度ともに高い
  3. 可能であれば気管支鏡を用いて病理学的検査および培養を行う

治療)

  • 抗真菌薬

【Ⅲ. アレルギー性気管支肺アスペルギルス症】

  • 中枢側の気管支拡張症が特徴的。粘液栓もしばしばみられ、細気管支レベルでは逍遥中心性の結節として認められることがある
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
参考文献)
  1. 迎寛「肺アスペルギルス症」日本内科学会雑誌 110巻 9号 1808-1814 2021
  2. 髙園貴弘「肺アスペルギルス症の診断」真菌誌 第64巻 25-30 2023
  3. 田代隆良「慢性壊死性肺アスペルギルス症の病態と発生病理」Med. Mycol. J. Vol. 56J, J 3−J 13, 2015
  4. 田代将人 他「慢性肺アスペルギルス症の病態,治療戦略, および薬剤耐性の諸問題」感染症誌 97:75~89,2023