IgA腎症

IgA腎症

【定義】

  • 糸球体性血尿*や蛋白尿などの検尿異常が持続的にみられ、糸球体にIgAの優位な沈着を認め、その原因となりうる基礎疾患**が認められないもの
    • 糸球体性血尿 赤血球形態観察にて変形赤血球(形や大きさが不均一で多彩)を認める。赤血球円柱などの所見も参考になる
    • 原因となり得る基礎疾患 肝疾患、SLEなどの膠原病、炎症性腸疾患、悪性腫瘍、感染症など

【疫学】

  • 発症率は10万人当たり3.9~4.5人/年と推定されている
  • 発見時の年齢は成人では20歳代、小児では10歳代が多いが、患者層は全ての年齢にわたる
  • 慢性糸球体腎炎のうち成人では30%以上、小児でも20%以上を占めている
  • 成人期発症IgA腎症の10年腎生存率は80~85%、小児期発症例の10年腎生存率は90%以上
  • 本邦では,学校検尿や職場検尿などによって早期発見されるものが大多数
  • さまざまな臨床経過を呈する。無治療でも長期間腎機能低下がおこらない例も多い反面、積極的治療にもかかわらず末期腎不全に進展する例もある
  • 確立された治療法はなく、発症から20年後には約40%が末期腎不全に至る
  • 約10%に家族性IgA腎症を認める

【病態】

  • 糸球体に沈着するIgAの産生、糸球体への沈着とメサンギウム細胞の増殖、基質の増加、腎炎の慢性化と多くの機序が介在していると考えられている
  • 蛍光抗体法または免疫組織科学的に糸球体へのIgAの優位な沈着がみられる
  • IgA沈着によるメサンギウム細胞の活性化と補体活性化が腎炎を惹起し、続いてポドサイト障害、尿細管障害が生じる
  • 上気道感染や消化管感染により、肉眼的血尿を伴う臨床症状の増悪を認めることから、本症病因と粘膜免疫との関連が疑われている
  • 粘膜感染症に続発する肉眼的血尿が遷延してAKIを起こすことがある(IgA腎症の5%未満)

【症状、検査所見】

  • 大部分の症例が無症候性の血尿、蛋白尿で発見される
  • 尿蛋白の量が腎与ごと密接に関連する。尿タンパク量の減少は腎予後の改善に重要
  • 急性腎炎様症状やネフローゼ症候群による浮腫が 発見の動機となることもある
  • しばしば急性上気道炎に肉眼的血尿を併発する
  • 所見としては中等度〜高度蛋白尿→高血圧→腎機能低下の順で出現することが多い。高血圧は血清クレアチニン値上昇の前に出現する
  • 発症から腎生検までの機関の中央値は16ヶ月

【診断】

確定診断には腎生検が必要だが、
1)持続的顕微鏡的血尿
2)持続的、あるいは間欠的蛋白尿
3)血清IgA値≧315mg/dL
の3つを満たす場合はIgA腎症の可能性が高いとされる

  1. 尿潜血陽性例では尿沈渣にて赤血球尿(≧赤血球5個/HPF)を少なくとも2回以上確認する
    • このとき、生理、運動、外傷、性的活動などは関連しないことが重要
    • 早朝尿との比較も重要
    • 変形赤血球、尿円柱などの糸球体性血尿の所見に注意する。変形赤血球75〜80%、あるいは有棘赤血球4%以上の場合には糸球体疾患が強く疑われる
    • 糸球体性血尿の所見が明らかでなければ泌尿器科的評価も必要となる(CTや超音波検査)
    • 尿路上皮癌の危険因子*を持つ場合、40歳以上では尿細胞診や膀胱鏡で検索することが望ましい
  2. 蛋白尿
    • 発症から長期経過した場合は蛋白尿のみのこともありうる
    • 早朝尿との比較で起立性ないし運動性蛋白尿の可能性を除外する
    • 1日0.15g以上の場合を尿蛋白陽性とする
  3. 肉眼的血尿
    • コーラ様(赤褐色または黒褐色)
    • 赤血球内のヘモグロビンが参加される結果である
    • 上気道感染直後に発作的に生じることが特徴
    • 頻度は成人で35%未満、小児で60%未満
  4. 血清IgA値
    • IgA腎症に必発と言える血液検査所見はない
    • 約半数で血清IgA≧315mg/dLを認める
  5. 腎生検
    • 確定診断のためには腎生検が必須
    • 予後予測や治療選択のためにも有用
    • 無症候性顕微鏡的血尿や軽微な蛋白尿単独のみの場合は、腎生検により患者管理方針が変更されることは稀
    • 1日尿蛋白0.3g以上0.5g未満の場合には腎生検を考慮する
    • 1日尿蛋白0.5g以上の場合には腎生検が選択されることが多い
    • 萎縮腎では出血合併症のリスクが高く、組織学評価も困難なため避けるべき
  6. 鑑別診断
    • IgA血管炎、肝硬変、ループス腎炎、関節リウマチに伴う腎炎など
    • 尿路上皮癌の危険因子
      • 喫煙 非喫煙者と比べて3〜4倍の発症リスクがあると報告されている(*)
      • 薬剤 シクロフォスファミド、フェナセチン
      • 職業性 石油、木炭、タールなど産業従事者では4〜5倍の発症リスク(*)

【治療】

  • 副腎皮質ステロイド薬は、尿蛋白 1g/日以上かつCKDステージ1~2のIgA腎症における腎機能障害の進行抑制ならびに尿蛋白の減少効果を有するため、使用するように推奨する(推奨レード 1B)
  • eGFR30mL/分/1.73㎡以上かつ尿蛋白量0.5g/日以上の場合は、組織学的重症度や血尿の程度、血圧、年齢を考慮した上で、RA系阻害薬や副腎皮質ステロイド薬の投与を検討する(推奨レード 1B)
  • eGFR30mL/分/1.73㎡以上かつ尿蛋白量0.5 g/日未満の場合は、薬物療法なしでの経過観察を基本とする
  • eGFR30mL/分/1.73㎡未満の場合は、血圧や尿蛋白量等を考慮した上でRA系阻害薬での治療を基本とするが、急速進行性の腎機能障害を呈する症例や急性の組織病変がある場合には、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の投与も考慮する
  • 口蓋扁桃摘出術はCKDステージG1—2で尿蛋白が1g/日前後までのIgA腎症患者では臨床的寛解を含めた尿所見の改善効果は期待されるが、腎機能低下の抑制効果については研究結果が一定せず不明。一方,口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス併用療法はCKDステージG1—2で尿蛋白が1g/日を超える場合でも臨床的寛解を含めた尿所見の改善効果は期待できる
  • 血圧は収縮期130mmHg未満、拡張期80mmHg未満を目標とする
参考文献)
  1. 成田一衛 監修「エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン」東京医学社
  2. 川村哲也「IgA腎症」日内会誌 109:917~925,2020
  3. 姚建 他「糸球体メサンギウム細胞の細胞特性」日腎会誌 2008;5(0 5):554-560.
  4. 淺沼克彦 他「腎糸球体上皮細胞の細胞特性I」日腎会誌 2008;5(0 5):532-539
  5. Freedman ND, Silverman DT, Hollennbeck AR, et al. Association between smoking and risk of bladder cancer amang men and women. JAMA. 2011;306:737-745.
  6. Roupret M, Babjuk M, Comperat E, et al. Euro- pean guidelines on upper tract urothelial carci- nomas: 2013 update. Eur Urol. 2013;63:1059-1071.