亜鉛欠乏症

【病態】

  • 亜鉛は300種類以上の酵素の活性中心あるいは補酵素として機能するので生命維持に不可欠
  • 亜鉛は血清中で60〜80%はアルブミンと結合しており、低アルブミンなどでアルブミンに結合できないと尿中に排泄される
  • 亜鉛欠乏によって多彩な症状が出現する

【症状】

口腔) 味覚障害、口内炎

  • 味蕾周辺には亜鉛を含む酵素が多く含まれる
  • 口内炎における亜鉛欠乏の頻度は5〜10%

皮膚) 皮膚炎、脱毛

  • 皮膚、毛髪には体内亜鉛の8%が存在
  • 亜鉛は表皮のタンパク合成に関わっている
  • 表皮内水疱、紅斑性発疹、鱗状斑などが特徴で進行すると乾癬様になる
  • 機械的刺激が加わりやすい部位に出現しやすい
  • 特に高齢者で多い
  • 脱毛は側頭部や後頭部に多い
  • 創傷治癒も遅延する

消化器系) 食欲不振,慢性下痢

  • 亜鉛欠乏により消化管粘膜が萎縮、消化液の分泌が減少し、消化管運動が低下
  • 著明な亜鉛欠乏では下痢を合併する

代謝)骨粗鬆症

  • アルカリフォスファターゼや、骨の成長因子が低下
    血液系) 貧血、汎血球減少、免疫機能低下
  • 亜鉛欠乏により赤芽球の分化、増殖が阻害される
  • 正球性または小球性でTIBCが低下

神経) 神経感覚障害、認知機能障害

泌尿生殖器系) 性腺発育障害、性腺機能障害

  • 特に男性の性腺の発達障害や機能不全が生じる(精子減少症やインポテンツ)
  • 精液中の亜鉛濃度と男性不妊とは負の相関がある

その他) 成長遅延、易感染性

【亜鉛欠乏を来しやすい疾患】

  • 慢性肝疾患、炎症性腸疾患、短腸症候群、透析例を含む腎臓病、糖尿病
  • 肝硬変では約90%が血清亜鉛80μg/d未満、約50%が60μg/d未満。肝硬変でなくても約76%が血清亜鉛80μg/d未満、約15%が60μg/d未満
  • ほとんどの腎不全患者では亜鉛欠乏がみられる
  • 高齢者の25%が亜鉛欠乏だったという報告がある
  • 特に在宅患者で高率

【診断】

【治療】

  • 食品からの摂取

    亜鉛製剤の投与量と期間)

    味覚障害 20〜50mg/日 3〜6ヶ月
    貧血 30〜40mg/日 2〜12ヶ月
    性腺機能低下 50mg 6ヶ月
    など

  • 亜鉛製剤の投与で銅欠乏性貧血を生じる可能性があるので投与中は血清亜鉛と血清銅のモニターは必須
  • 銅欠乏を回避するためには血清亜鉛濃度が100μg/dL以上になれば減量を検討、120μg/dL以上では休薬する
  • 銅欠乏に対してはきなこやココアを用いる。
    純ココア 10g/日

● 225〜400mg/日の過剰投与では嘔吐が出現し、経口摂取が困難となる

参考文献)
  1. 日本臨床栄養学会「亜鉛欠乏症の診療指針 2018」
  2. 小関至「亜鉛欠乏と慢性肝疾患」日消誌 2020;117:606―618
  3. 鳥山泰嵩 他「亜鉛補充で生じた銅欠乏性貧血に純ココア投与が著効した低アルブミン血症を伴う重症心身障害児(者)の1例」日本重症心身障害学会誌第46巻 3号 373〜378(2021)
  4. 神田怜生 他「血液透析患者の低亜鉛血症に伴う貧血に対する亜鉛補充療法の検討」透析会誌 53(2):71~76,2020