症候
食欲不振と体重減少
食欲不振と体重減少
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・原因は非常に多岐に渉るため5〜10年程度の生活歴を含む十分な問診、理学所見、検査を行って詳細に評価する必要がある
・10年で10%以上の体重減少は男性で1.5倍、女性で1.8倍におよぶ死亡の相対リスク上昇に関連しており、同じく1年で4%以上の体重減少は全体で2.43倍の死亡相対リスクと関連する(*1)
・高齢者で6ヶ月以内に体重の5%以上の減少があれば原因を検索すべきである
・体重減少の原因で頻度の高いものは、悪性疾患、精神疾患、消化管疾患、内分泌疾患、アルコールなどの薬物である
・若年者で感冒様症状を伴う体重減少はHIV感染も念頭におく
【STEP1】十分食べられているか?あるいは食べられないとすれば何故か?
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・臨床所見によりある程度は診断の優先順位が推測できる
・しかし、例外も多いので決めつけずに丁寧に検索する必要がある
比較的考えやすい疾患一覧
【STEP2】評価
生物医学的原因
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・体重減少の生じた時期とその後の経過を逐次的に問診する
・咀嚼や嚥下の問題があれば歯と口腔、嚥下の評価、およびパーキンソン症候群や球麻痺を評価する
・一般理学所見(肺雑音、心雑音、舌・口腔の観察、浮腫、パーキンソニズムなどを含む)
・スクリーニングとしてまず以下の血液生化学、血算、尿検査を行う

・これで糖尿病、甲状腺機能亢進症、副腎不全、高Ca血症、炎症、腎不全や肝不全、炎症の有無や程度などを評価する
・随時血中コルチゾール値を用いた副腎クリーゼの判定の目安として3~5 μg/dl 未満なら副腎不全症を強く疑う。18μg/dl以上であればまず問題はない
・血算、生化学、腹部超音波検査、胸腹部CT検査、上部消化管内視鏡を行えば98%で悪性疾患を診断できるとされている
・心臓、腎臓、肝臓、呼吸器、消化管などの問題を考えれば以下のような検査を行う


・ALSでも数ヶ月で5kg程度の体重減少がおこる場合がある
ALS
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・味覚障害、嗅覚障害や舌炎を疑えばビタミンB12、葉酸、亜鉛を調べる
ビタミンB12・葉酸欠乏
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・ここまでの評価で該当するものがなければ、性交歴を問診してHIV抗体を調べる
HIV感染症
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・薬剤が原因で味覚・嗅覚障害や口腔乾燥が生じることもある

心理社会的原因
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・認知障害、精神疾患(うつ病)の頻度が高いが、特に若年者では摂食障害も考える
認知障害
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・記憶障害だけでは認知障害とは診断できない。実行機能の低下、失行、失認、失語のいずれかが合併したときに初めて認知障害を疑う
認知障害
うつ病)
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・倦怠感・疲労感、睡眠障害はともにうつ病患者の8割以上でみられるのでまず確認する
・就寝時間、入眠時間、覚醒時間、離床時間、中途覚醒、熟眠感などを確認する
・憂鬱感、不安症層、倦怠感を確認するのは重要だが、憂鬱感を自覚しない、あるいは否認する例は少なくない

・簡単なスクリーニングとしてはPHQ-2がある

摂食障害)
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・好発年齢は神経性食思不振症が10〜19歳、神経過食症は20〜29歳だが、30歳代になっても入院例がある

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・生活能力の低下、介護力の不足などによって健康的な食生活の維持が困難になっている可能性も検討する
- 参考文献)
1.Alibhal et.al An approach to the management of unintentional weight loss in elderly people CMAJ. 2005 Mar 15; 172(6): 773–780.
2.Whooley et. al.: Case-finding instruments for depression. Two questions are as good as many. J Gen Intern Med, 12:439-45, 1997
3.US Preventive Services Task Force. Screening for eating disorders in adolescents and adults: US Preventive Services Task Force recommendation statement. JAMA. 2022;327(11):1061–1067.
4.中西重清 德田安春 「プライマリケア外来診断目利き術」南山堂 2020
5.David S.Smith 監訳 生坂政臣 「早わざ外来診断術」中山書店 2009
6.上田剛士 「ジェネラリストのための内科診断リファレンス」医学書院 2014