アルコール離脱症候群
  • アルコール常用者で、最後の飲酒から6時間以上経過した頃に出現するに始まる自律神経症状を中心とする早期症候群と、概ね48時間以降に始まる振戦譫妄がある
  • 振戦譫妄では死亡率は5%以上と報告されている(*1)
  • 離脱痙攣発作は10〜30%で生じる

【機序】

  • 詳細な機序は不明
  • 慢性多量飲酒者では、アルコールの作用により神経細胞の活動性を抑制するGABA受容体機能が増強され、逆に興奮性作用を持つNMDA受容体機能は抑制されている
  • この状態でアルコール濃度が急激に低下するとGABA受容体機能が低下し、逆にNMDA受容機能が増強して、神経が過剰に興奮することで発症すると推測されている(*2,*3)

【症状】

  • 早期には自律神経症状が中心で、痙攣発作を合併することもある。振戦譫妄では自律神経症状が激しくなり、幻視、幻聴、体感幻覚などの神経精神症状が現れる

【診断】

  • 以下の診断基準で示されるように、疑いがあればほとんどの例が診断基準を満たすことになる
  • ただし、他の原因や併存疾患の診断には十分な注意が必要(「アルコール使用障害患者で留意すべき病態」参照)

【評価と治療】

  • 入院時に必ずアルコール摂取についての問診を行い、リスクの有無を確認しておく
    振戦、嘔吐、不安、不眠、興奮などの症状があれば、アルコール離脱症候群の発症を想定してCIWA-Arにて評価する
  • CIWA-Ar

1. 発症予防

  • この評価を行うような疑いがあれば結果が「軽症」であってもを予防を開始する
    1. ロラゼパム(ワイパックス)4.0mg 4X 3日間 → 2.0mg4X 4日間 → 終了
    2. クロルジアゼポキシド(コントール、バランス) 75ー300mg 3X 1日 → 75ー150mg 3x 2日間

2. 治療

  1. CIWA-Ar<8点では、一般的な治療を行いながら注意深くCIWA-Arを用いて経過観察する
  2. CIWA-Ar≧8点では治療介入を始める
    ジアゼパム静注
    • 5〜10mgの静注を行って再評価し、8点以上が持続していれば繰り返す。何回でも繰り返す
    • 致死的な病態なので投与を躊躇せずに、速やかかつ十分量を投与する
    • ルートが取れなければミダゾラム 10mg の筋注、口腔内、鼻腔内、直腸内投与
    • 気管内挿管、人工呼吸も必要となる場合がある
    • 7日間以上の投与は推奨されない

3. ビタミンB1投与

  • アルコール使用障害の患者が救急外来などを受診した場合には原則としてビタミンB1の投与を行う
  • 状態が悪ければビタミンB1血中濃度の検体にこだわらず可能な限り早期に投与する
  • 投与量は病態により異なる。ウエルニッケ脳症が疑われる場合は大量となる
ビタミンB1投与法
参考文献)
  1. R.Monte,R.Rabuñal,E.Casariego,etal.Analysisofthe Factors Determining Survival of Alcoholic Withdrawal Syndrome Patients in a General Hospital : Alcohol and Alcoholism, 2010: 45: 151-8.
  2. 菱本明豊「アルコール依存の生物学」日本生物学的精神医学会誌 21巻 1号 2010年 3. 伊藤瑞規 他「離脱症候群(振戦譫妄)」2005,62:413-317 4. 髙岸勝繁 他「ホスピタリストのための内科診療フローチャート第2版」シーニュ 2019