- 第1肋骨 鎖骨によって構成される胸郭出口部で腕神経叢や鎖骨下動脈、鎖骨下静脈が頚肋、鎖骨、第1肋骨などの骨や、前斜角筋、中斜角筋、小胸筋などの筋によって圧迫・牽引されることで生じる症候群
- 症状は非常に多彩で、症例による差も大きく、症状の現れる部位も広範囲であるため診断は比較的難しい
- 発症時の平均年齢は27.3歳
- 1:3.7で女性に多い
- 先天的な要因としては頚肋、斜角筋走行異常などがある
- 後天的な要因としては外傷、不良姿勢、痩身、下垂肩(なで肩)、あるいは肩背部の筋群に負荷をかけるスポーツや労働などがある
疾患
胸郭出口症候群
【症状】
- 上肢帯〜上肢〜手のしびれや痛み、重だるさ、握力低下など
- 野球選手では投球時のしびれとして現れることもある
- 上肢挙上、重い物を肩にかつぐ、投球するなどの動作を繰り返すと症状が現れやすい
- 原因として神経系、動脈系、静脈系の3つがあり、それぞれ様々な症状を呈する。神経系の症状が最も多い
- 症状の現れる領域は肩甲帯から上腕、前腕など様々である
- 肩甲帯、上腕・前腕、手指に運動麻痺が生じて筋力が低下する場合もある
【機序】
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発症に関与する解剖学的部位は3つある
- 斜角筋三角部
- 肋鎖関節部
- 小胸筋下間隙
- 症状が出現するメカニズムは①神経・血管の圧迫、②神経の牽引、③圧迫と牽引の混合型にわかれる
- 頻度としては混合型が最多であり70%以上である
- 圧迫型)
- 鎖骨と第一肋骨で神経や血管が圧迫されて症状が出現する。手を挙げて行う作業が多い作業の従事者やスポーツマンに多い
- 牽引型)
- なで肩などの姿勢不良が原因で腕神経叢が牽引されることで症状が出現する。手を下げていてもしびれやだるさがある場合はこの要素が強いと考えられる
【評価と診断】
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問診
- 上肢を挙上する動作が困難であることが重要な手掛かりとなる
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理学所見
- 鎖骨上窩の圧痛を認めることが多い
- (Roos test) 最も有用な整形外科的テスト
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- 腕を外転90度、外旋90度、肘を90度曲げた状態にして、指の曲げ伸ばしをおおむね1秒ごとに繰り返す
- 上肢のしびれやだるさが出現して肢位を保持していられなくなるまでの時間を測定する
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3分以内であれば陽性であり、特に1分以内であれば可能性が高い
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画像診断
- 3D-CT
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- 上肢を屈曲180°および0° として撮影
- 屈曲180°にて鎖骨と第一肋骨の間隙が狭小化する場合はTOSの可能性がある
- 血管造影を併用すれば血管の圧迫が可視化できる
- 超音波検査
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鎖骨下動脈の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV)の評価
- 下垂位、90°外転位、最大挙上位の3肢位でそれぞれPSVを測定(正常80~120cm/秒)
- 上肢挙上にてPSVが0cm/秒になる場合には血管の狭窄が強く疑われる
- PSVの著明な低下があればTOSと診断できる
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第一肋骨筋停止部での前・中斜角筋三角底辺間距離(ISD)の計測
- ISDは第一肋骨内縁に沿って計測
- 正常では平均10mm程度だが、TOS患者では平均距離以下であることが多い
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手術症例においてISDは平均5mm程度
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鎖骨下動脈の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV)の評価
- 神経伝導速度
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- 原因が神経系か、血管系かを鑑別するために神経伝導速度を測定することもある
【治療】
基本は保存治療
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日常生活
- 日常生活や仕事において疼痛を感じない肢位でいること
- 上肢挙上動作の繰り返しを避ける
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理学療法
- 一般人で55%、スポーツ選手で70%の症状軽減が期待できる
- 僧帽筋、肩甲挙筋、斜角筋、大胸筋、小胸筋などの頸部や肩甲骨のアライメントに影響を与える筋に対するストレッチ、筋力の不均衡を調整するための筋力強化など
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薬物療法
- NSAIDS
- プレガバリン
- トラムセット
- タリージェ
- サインバルタ
- ロコアテープ
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手術
- 日常生活に支障を来している例
- 適切な理学療法を行っても症状の改善がなくスポーツ復帰が困難
- 参考文献)
- 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版」日本医事新報社 2022:胸郭出口症候群 古島弘三
- 甲斐之尋 他「胸郭出口症候群の診断基準」整形外科と災害外科 54:(2)343〜347, 2005
- 高木克公 編集「胸郭出口症候群の診断と治療」ORTHOPAEDICS VOL.11 NO.7 全日本病院出版界 1998