症候
腎臓・泌尿器 (3)
急性腎障害(AKI)
急性腎障害(Acute kidney injury:AKI)
【STEP1】AKIの診断
KDIGO基準
・血清クレアチニン値の絶対値だけでは判断できない
・除外には少なくとも1週間以上の経過観察を要する
・早期診断のためにはつぎのAKIN基準がある
【STEP2】腎後性腎不全の除外
・AKIをみたら直ちに超音波検査を行う
・最低限確認すべきことは
① 水腎症の有無
② 腎皮質萎縮の有無
③ 膀胱容量
・膀胱容量の拡大だけではAKIの原因になっているとは限らないため必ず水腎症も確認する
・可能であれば、腎盂尿管結石、泌尿器系腫瘍などについても検索する
【STEP3】緊急透析適応の判断
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・実際には、可能であれば腎臓内科医に相談しながら、可能な対処を行いつつ判断することになる
・「AKI診療ガイドライン2016」ではAKIに対する早期の血液浄化療法開始が予後を改善するエビデンスは乏しく、臨床症状や病態を広く考慮して開始時期を決定すべきと推奨している
【STEP4】腎毒性のある薬剤は可能な限り中止する
・腎機能の指標としては、必ず、性別、年齢、身長、体重で補正した値を用いる
補正eGFRの算出
・食欲低下や低血圧があったり、脱水が疑われるときにはACE-iやARBは即時中止する。
GFRの自動調節
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・メトトレキサートは腎排泄性でpH5.5未満の酸性尿で不溶性となり結晶が析出する。そこで、メトトレキサート中毒時にはアセタゾラミド(ダイアモックス)などを併用して尿のアルカリ化を行うことでメトトレキサートの排泄が促進する。トリアムテレン、スルファジアジンでも同様(*4)
【STEP5】治療を始めながら腎前性と腎性を鑑別する
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・一般的にはFENaを用いて鑑別するとされている。1%以上なら腎性、未満なら腎前性
・しかし、FENaは万能ではない
・FENaの絶対値のみでは腎前性と腎性を鑑別しきれない
・もともと慢性腎臓病で腎機能が低下している場合はベースラインのFENaが高くなっている
→ この場合は事前のFENaとの比較が必要になる
・cut offを1.0とできるのは、事前のFENaが正常だった場合のみ
・腎性AKIでも造影剤腎症、横紋筋融解症、急性糸球体腎炎などではFENaが低下することがある
FENa
◎ 前腎性と腎性の鑑別は必ずしも容易ではない
◎ 鑑別できないでも対応は可能であり、そのほうが現実的
1. まず前腎性と想定して輸液負荷を開始する
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① 負荷は原則的にリンゲル液あるいは生食で開始する。その反応性は鑑別の一助となる(診断的治療)
・血漿浸透圧を評価すると判断の材料になる
脱水の評価
② 輸液が過剰ではないか、病態に悪影響が生じてないかについては、常に注意しておく
③ その上で、前腎性と腎性の鑑別の努力は続ける

・AKIが発症した場所によって、腎前性、腎性、腎後性の頻度は大きく異なることが報告されている(*3)
・院外発症では脱水などの腎前性が70%、腎後性は20%で、腎性は10%しかいない
・入院するとほとんどの場合は脱水の補正や水分管理が適切に行われるために腎前性は少なく、腎性が増える
・入院後に腎性腎不全を発症した場合の死亡率は非常に高い
◎ 血尿、顆粒円柱などの尿沈渣所見は強く腎性を示唆する
◎ 遅くとも、腎性のAKIの疑いが強くなった段階で腎臓内科に相談する
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・急性尿細管壊死以外の腎性AKIについても、尿生化学については同じ傾向
【尿浸透圧の概算】
尿浸透圧(mOsm/kg): 基準値50〜1300
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急速進行性糸球体腎炎
糸球体腎炎
間質体腎炎
◎ AKIの時には尿中クレアチニン排出が低下する。尿タンパク/クレアチニン比を尿タンパク量評価に使うのは不適切
2. 利尿薬を試みる
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・原則的には体液量が過剰でなければ用いるべきではない
・そこで、十分な輸液を行いつつ評価を進めながら試みることになる
・血清クレアチニン値X20mgをボーラス投与→最大量200mgボーラスまで試みる
・十分な尿量が得られて、血清クレアチニン値も改善すれば有効。尿量が確保されても、クレアチニン値が改善しなければ無効と判断する
・フロセミドを投与しても予後改善や透析回避効果はない(*8)
・それで、反応がなければ速やかにあきらめて血液透析を検討する
・間質性腎炎や糸球体腎炎ではステロイドを用いることもあるが原則的には腎臓内科に依頼する
【予防】
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・AKIは予防が重要である。いったんAKIとなれば、CKDに移行したり、あるいはもともとCKDであった場合にはさらに増悪することも多い
・AKI発症のハイリスク群はCKD、高齢者、心不全、高度肝障害、糖尿病など
・外来の高齢患者、あるいは入院患者はいつでもAKIを起こしうると想定する必要がある
・留意すべき重要なポイントは
① 適切な血圧コントロール。過剰な高血圧はもちろんだが、下げすぎも危険
② 腎毒性のある内服薬の使用には細心の注意を払う。ていねいにCCrに対応した容量調節をする
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参考文献)
1. AKI診療ガイドライン作成委員会「AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016」日腎会誌 2017;59(4):419‒533.
2. 土井研人「急性腎障害の新たな診断と治療」 日本内科学会雑誌 107巻 9号 2018
3. Naveen Singri, MD; Shubhada N. Ahya, MD; Murray L. Levin, MD Acute Renal Failure.JAMA 289, 747-751 2003
4. 平田純生 他「薬剤性腎障害と薬物の適正使用」日腎会誌 2012;5(4 7):999-1005. 5. 髙岸勝繁 他「ホスピタリストのための内科診療フローチャート第2版」シーニュ 2019
6. 今井直彦「極論で語る腎臓内科」丸善出版,2018
7. 筒泉貴彦 他編集「総合内科病棟マニュアル」メディカル・サイエンス・インターナショナル 2017
8. Cantarovich, F et a!. High-Dose Furosemide for Established ARF: A Prospective Randomized Double-Blind Placebo-Controlled,Multicenter Trial. Am. J. Kidney Dis. 44,402-409(2004).