- 手根管内圧の上昇によって生じる正中神経の障害
- 絞扼性神経障害の中で最も多い
- 男女比は1:5
- 女性では妊娠・出産期と更年期に発症しやすい
- 発症の危険因子は女性、肥満、年齢、糖尿病、妊娠、血液透析、甲状腺疾患、関節リウマチなど
疾患
手根管症候群
【手根管】
- 底面側面を手根骨、上面を横手根靱帯に囲まれたトンネル上の構造
- この内部を正中神経および手指屈筋が走行している
【症状】
- 正中神経領域の感覚障害

- 急性期には、間欠性の疼痛やしびれ、夜間痛が特徴的。慢性化すると症状が持続的になる
- 夜間や早朝に症状が悪化するので手のしびれでの覚醒、あるいは、起床時の強いしびれを認めることがある
- 手を振るとしびれが軽減するなどことがある(flick sign)
- より近位で分岐する正中神経手掌枝の支配領域である母指球には症状がみられない
- 慢性化した重症例では母指球筋(短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋)の萎縮が見られる
- 「猿手変形」を生じることもある(母指球が萎縮してがへこみ、親指が内転気味になる)
【診断】
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理学的評価
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正中神経領域の感覚障害を確認した上で以下のような評価を行う
Tinnel 徴候
- Tinelテストとは、末梢神経障害において傷害部位(再生軸索の先端部分)を刺激する誘発テストの総称。様々な部位に対して行われる
- 手根管症候群の場合は手関節付近の正中神経を叩くととチクチクとしたしびれ感が放散すれば陽性
Phalen テスト
- 両手を合掌させて行う逆 Phalenテストもある
Perfect O テスト
- 親指を動かす母指球筋が麻痺して萎縮するために母指対立が障害されて親指と人差し指でOKサインがうまく作れなくなる(上図右)徴候。手根管症候群の重症例で出現する
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正中神経領域の感覚障害を確認した上で以下のような評価を行う
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「超音波検査
- 横手根靱帯の近位側に偽性神経腫を認めることがある
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電気生理学検査
- 1. 2. の方法で診断可能だが、これを用いれば確定診断となる
【治療】
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保存治療
- まずは保存治療を試みる
- 発症に手関節運動が関係するので、装具で手関節の制動することで症状が改善する場合もある
- 局所の安静を保つ。コルセットを用いる場合もある
- NSAIDS、ステロイド内服、ビタミン剤などの内服は長期的な有効性がない
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症状の強い場合には手根管内のステロイド注射を試みる。神経周囲のfasciaの萎縮により手根管内圧の低減が期待できる(*)
ケナコルト4mg+キシロカイン1% 2ml
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手術
- 保存治療無効例、期に祝賀高度な重症例、患者の希望で早期社会復帰を目ざす場合などに手術が行われる
* ステロイドの手根管内注入
- ステロイドの手根管内注入はプラセボと比べて有効であることが確立されている
- ステロイド内服と比較すると、開始後2週間では差が無かったが、8週間後には注射群で誘因な改善を認めたと報告されている
- スプリント+主演鎮痛剤と比較すると開始後2週間、8週間で有意差を認めなかったと報告されている
したがって、ステロイド手根乾噫注射は1〜2ヶ月後の時点までは症状軽減に有効であるが、スプリント+消炎鎮痛剤とは有意差がなく、現時点で長期的な効果については評価が定まっていない
- 参考文献)
- 猿田享男 監修「1252専門家による私の治療 2021-2022年度版」日本医事新報社 2022:手根管症候群 山部英行
- 日本神経治療学会 「標準的神経治療:手根管症候群」日本神経治療学会 治療指針作成委員会 2007
- ジョセフ.J.シブリアーノ「整形外科テスト法(3版)」医道の日本社 1997
- 日本神経治療学会「標準的神経治療 しびれ感」医学書院 2017 5.Simel D, et al : The Rational Clinical Examination : Evidence-Based Clinical Diagnosis. JAMA & Archives Journals, McGraw-Hill, 2008.