頸椎症性神経根症
【疫学】
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椎間板膨隆やヘルニア,Luschka関節(*)や椎間関節の骨化により、椎間孔部で神経根が圧迫されて生ずる
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発症には頸髄の静的および動的因子に加えて、二次的な循環障害が関与する
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症候性の頸椎症は50歳以降に発症しやすく、女性より男性に多い
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障害レベルはC7神経根が最多であり、ついでC6、C8、C5である
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60歳以上では頸椎症性変化を85%以上に認め、脊髄圧迫を7.6%に認める。したがって、MRIで頸椎圧迫を伴う頸椎症を認めても、それがただちに神経徴候の原因だと考えるべきではない
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日常生活指導により良好な経過を摂る場合が多く手術が必要になることは少ない
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椎間板ヘルニアに起因する神経根症では、ヘルニアが自然吸収され神経根症の自然治癒にいたる例が多数報告されている
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約60~90%が自然軽快し、不変は約 25~30%、悪化は数%から約10%存在する
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Luschka関節 第3頸椎から第7頸椎の椎体の上面で、後外側縁上方に突き出す突起を鉤状突起またはLuschka突起と呼ぶ。このLuschka突起と上の椎体が接接する面をLuschka関節、または項椎関節と呼ぶ

【症状】
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上肢、頚部、肩甲骨周辺部の痛みと上肢のしびれ感、感覚障害、筋力低下、腿反射異常がある場合、頚部神経根症を疑う
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急性に発症する場合と、緩徐に発症する場合がある
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急性発症の場合は激しい神経根痛がおこり、その後上肢に感覚運動障害があらわれる
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緩徐発症の場合は、頸部や肩甲骨周囲の鈍痛と上肢の放散痛としびれが徐々に発現する

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一側の神経根痛で初発することが多い(脊髄症との鑑別点)
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神経根痛は前根の運動線維と後根の感覚線維のいずれか、あるいは両方の刺激で生じる
後根の刺激では神経痛様の刺すような激痛が支配領域に放散する
前根の刺激では、筋に局所的な筋緊張が生じ、筋肉痛様の痛みが支配筋に生じる
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安静臥床によって軽快しない
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増悪因子
咳嗽、排便時のいきみなどによる脊柱管内圧の上昇
頸椎後屈や病変側への側屈

② 感覚障害、運動障害、腱反射の異常
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自覚的なしびれは必ずしも神経支配領域に一致しないこともある
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半数弱はデルマトームと一致しない分布になる
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感覚障害が軽微で筋萎縮が主徴となることもある
・筋萎縮は必ず限局性
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感覚障害が軽微で筋萎縮が主徴となることもある
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筋萎縮は必ず限局性


③ 偽性根痛
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局所的な筋緊張・圧痛と重だるい深部痛
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筋に局所的緊張が生じ、筋内の感覚神経を介して生じる
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神経根症で一側の大胸筋に疼痛が生じることがある
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多くはC7神経根部障害
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C7神経根障害241例の5%に前胸部の深部痛を認めたとする報告がある
【整形外科的テスト】
Spurling テスト:頸部を患側に側屈し、さらに頸椎伸展して上から圧迫すると痛みとしびれが増強する

肩外転テスト: 上肢を挙上して手を頭部に乗せると神経根の緊張がゆるんで痛みやしびれが軽減する

【検査】
単純X線 側面像で全体のアラインメントと椎間腔の狭小化、発達性脊柱管狭窄の有無を確認
頸椎MRI 椎間板の突出、黄色靭帯の膨隆による脊髄圧迫の程度、またT2強調画像で髄内の高信号の有無を評価
電気生理学検査 頸椎症では通常神経伝導速度に異常を認めないので末梢神経障害との鑑別に有効。傷害された髄節以外の筋に脱神経所見や神経原性変化を認めた場合には運動ニューロン疾患を考慮する
【鑑別診断】
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上肢に運動・感覚障害をおこすあらゆる疾患との鑑別診断が必要
筋萎縮性側索硬化症
初期症状)軽度の球麻痺、舌萎縮、頸部屈曲力低下、傍脊柱筋の萎縮
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萎縮筋での腱反射の残存あるいは亢進
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広範な筋繊維束収縮
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短期間での体重減少(半年で5〜10kgの体重減少はまれではない)
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頸椎症では筋萎縮は障害された髄節に限定されるが、筋萎縮性側索硬化症では広範囲に分布する
脊髄サルコイドーシス
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どの脊髄高位も障害するが,とくに中下位頸髄に高頻度
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発症様式は急性から緩徐進行性まで様々
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これを疑えば胸部CTにて肺門部に両側性のリンパ節腫大(BHL)、ガリウムシンチあるいはFDG-PETにて全身の病変の有無をしらべ、病変のある部位からの組織診断をする
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脊髄以外に病変 がないときには,脊髄生検を考慮する必要がある
【治療】
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保存的治療
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頸椎の良い姿勢を保持して動的障害を除くことが重要。とくに後屈を避けることが重要。このような注意により神経症候の悪化をある程度は防げる
上を見上げる姿勢
首をぐるぐる回す運動は避ける
腹ばいでの読書や不適切な姿勢でテレビ視聴
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就寝時には頸部までしっかり固定できる面積の広い枕を使う
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頸椎の良姿勢の保持のために頸椎カラーも有効
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経椎間孔硬膜外/神経根へのステロイド注射(神経根ブロック)
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十分なエビデンスはないが考慮しても良い
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行う場合は必ず透視やCTガイド下で行う
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同様にエコーガイド下hydro-releaseを考慮してもよいと思われる(*3)
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手術
適応とならないもの) 軽症例 重症急性発症例で不可逆的な障害が固定した場合
適応となるもの) 頻回増悪例
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参考文献)
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安藤哲朗「頸椎症の診療」臨床神経 2012;52:469-479
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日本神経治療学会「標準的神経治療 しびれ感」医学書院 2107
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乾敏彦 他「頚椎症性神経根症(椎間板ヘルニア含む)の外科治療に関する指針」Spinal Surgery 29(3)242‒251,2015
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木村裕明 他「解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床 第2版 -ハイドロリリースのすべて-: Fasciaの評価と治療」文光堂 2021