疾患
産婦人科 (3)
骨盤内炎症症候群
骨盤内炎症性疾患
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・女性の上部生殖器、S状結腸、直腸、ダグラス窩などに上行性に生じる急性または慢性の感染症の総称。子宮内膜炎、卵管炎、卵巣炎、腹膜炎、Fitz-Hugh-Curtis症候群、欄干・卵巣膿瘍が含まれる
・Fitz-Hugh-Curtis症候群は骨盤内炎症性疾患の波及により肝周囲炎をきたした病態
・付属器を含めた婦人科臓器周囲の腹膜炎を主体とする型と、卵管卵巣膿瘍などの膿瘍形成型がある
・性的に活発な25歳以下の女性、複数のsex partner、PID既往どがリスク因子(問診時はプライバシーに十分に気を配る)
・ほとんどが複数種の菌による感染で、クラミジア、ナイセリア(淋菌)、マイコプラズマ、腸内細菌などが多いが、グラム陽性菌やインフルエンザ桿菌などもある
【症状】
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・典型的には急性の両側性下腹部痛。無症状のこともある
・下腹部の局所性圧痛を伴うことが多い
・月経中〜終了直後の下腹部痛が多い
・性交時痛を伴う場合もある
・発熱は約半数、不正性器出血は1/3で見られる
・症候性PIDを生じた女性の25%に、子宮外妊娠、不眠、慢性骨盤痛などの後遺症を生じる
【診断】
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・まず、妊娠反応陰性を確認する
・女性の骨盤部〜下腹部痛でPID以外の疾患が除外された場合に、子宮頸部の可動痛・子宮の圧痛・付属器の圧痛のうち1つ以上が該当すればPIDとしてエンピリックに治療開始する
・白血球増多とCRP上昇を認めることが多い
・起炎菌の同定は非常に重要であり、スワブにより子宮頸管検体を採取する。鏡検、培養同定とともに、核酸増幅同定検査も提出する
・クラミジアと淋菌は子宮頸管で陰性であっても上部の感染巣では否定できない
・Fitz-Hugh-Curtis症候群では、腹腔鏡による観察が必要だったが、造影CTで造影早期の巻皮膜及び皮膜下の濃染像によっても診断可能
【治療】
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・後遺症予防の観点から、治療の閾値は低くするように推奨されている
・若年女性のPIDでは全例でクラミジアと淋菌をカバーしたほうが無難
・クラミジアに対する抗生剤の選択肢は多い。ところが、淋菌は耐性が多く、確実性が高いのはCTRXのみ
・膿瘍形成型では嫌気性菌を強く疑ってメトロニダゾール併用を検討。十分なドレナージができない膿瘍に対する抗生剤の投与期間は4週間以上とされている
・膿瘍形成型では経皮的ドレナージや、腹腔鏡下手術を考慮
淋菌感染症
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・性器クラミジアと並んで頻度の高い性感染症
・1回の性行為での伝染率は約30%
・主として男性では尿道炎、女性では子宮頸管炎を生じる
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参考文献)
1.野上侑哉「子宮付属器炎:骨盤内炎症性疾患[私の治療]」日本医事新報電子コンテンツ 2020-03-10登録
2.野口靖之「骨盤内炎症性疾患」日本医事新報電子コンテンツ 2017-03-16登録
3.舘野 晴彦 他「画像所見が診断の一助となった Fitz-Hugh-Curtis症候群の2例」日内会誌 104:2388~2393,2015
4.増山 寿 「卵巣茎捻転の診断および治療法に関する検討」日本腹部救急医学会雑誌 33(6): 941〜945、2013